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第21話
翌日、俺は反対校舎の一年の教室を三階から眺めていた。
というより、監視に近い。
上から網羅するように見張っていれば、教室から齊藤は出てきた。
放課後まで一度も出てこなかったから、骨がおれるところだった。
昨日の今日で、齊藤は笑顔だ。
「ん?」
俺は目を凝らした。
眼鏡を外し(実は伊達だ)、齊藤を凝視すると、教室から齊藤を追いかけるデカブツが一匹。
友人か。
それにしても距離が近い。
「何だあれは。俺は幻覚を見ているのか」
「泉。お前、不審者並に気色悪い」
「なぁ、見てみろよ」
「あ、齊藤じゃないか」
「じゃなくて、隣のデカブツ」
「お前、デカブツとは言い過ぎだ。男はその方がモテるらしいぞ」
「ふざけるな」
「はいはい」と三船は俺の話を七割も聞かずに、教室へ戻っていく。
しかし、去り際に「デカブツとかは今後は俺以外のとこでは慎めよ。アイツ、バレー部の期待の星らしいぞ。お前の評判を下げれば、あの齊藤を引き込むことすら難しくなるからな。丁重に事を運ぶことだな」なんてデカブツの肩を持つような発言をし、俺は一端苦虫を奥歯で潰す。
だが、目線は齊藤に移したまま。
厄介なデカブツという邪魔者が入り込む隙を作ってしまったのは、俺のミス。
昨日は走り去る前にさっさと捕まえるべきだった。
あとから好きなものを食べる派の俺は、齊藤の傷付いたような顔を見て、後から上手く俺の方に引き込んで、食べようと思っていた。
それはそれは、美味しく頂こうと楽しみにしていた。
俺から手を出しといて「必要ない」なんて横暴な事をまともに受け入れた齊藤も、相当純粋だ。
そこが盲点でもあった。
素直に受け止め、きっぱりと関係を切ったであろう齊藤は、何事もなかったかのように新しく出来た友人と、学校生活を送ろうとしていた。
やはり、美味しいものは先に食っとくべきだ、ということを初めて知った。
それからも暫く齊藤の動向を見ていれば、男が通りすぎる度にデカブツの袖をつかみ、恐怖に耐えている。
表情から、トラウマになってしまったことは、見てとれた。
気に食わねぇ。
齊藤を心配する前にデカブツに嫉妬心を抱く。
すると、気付いた。
サラッと肩を抱いて安心させているその所為は。
デカブツもきっと、齊藤が好きだ。
俺の手の中にあった一年全員の名簿一覧表が、皺だらけになり見づらくなった。
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