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第5話
気難しい顔をしていつも眉間にしわを寄せている慶一だが、寝るときばかりはその表情も穏やかで、10も年上とは思えないほど幼さが増す。
あの後、秋青が果てるまでに何度も絶頂を迎えた慶一は、その体力を使い果たして、気絶するように眠った。
それでも、自分が果てるまでは必死に快感に耐えて、文字通り頑張ってくれた慶一に、今さらながら申し訳なさが込み上げてくる。
――さすがに無理させたかなあ。
慶一を前にすると、どうしてだかいつも理性を保っていられなくて、そんなんだから慶一にいつまでも子ども扱いされるんだと秋青は思った。
とは言いつつ、体をキレイにしている間ピクリとも動かなかった慶一が、眠る段になって、無意識だろうが自分に身をすり寄せてきたときには、再び元気になりそうになったことはここだけの話だ。
頬にかかる前髪をそっとかき上げて、あどけない寝顔を飽きることなく眺めながら。
この人がこの先ずっと、こんな穏やかな表情を浮かべていられたらいいのに、と思う。
春になると、愛しい人は自分のもとから去っていく。秋青の想い人はもう何年とそんな呪縛から逃れられないほど、悲しい恋の歴史を積み重ねてきた。
慶一の抱える不安や葛藤を、慶一が思っているよりも秋青は、正確に理解しているつもりだった。
一緒に暮らすようになって一年ほどが経つが、社会人になった今、学生だった頃に比べたら、自由にできる時間は格段に減った。四月に入ってたったこの一ヵ月で、慶一を起こしにいけなかったり、コーヒーを淹れてあげられなかったりする日が増えた。
朝が弱く朝食を食べる習慣のない慶一と、コーヒーを嗜む習慣を持たない自分。
歳が離れていることもあってか共通項の少ない彼らにとって、これまで紡いできた二人きりの朝の時間は、何にも代えがたい大切なひとときであり、また、二人をつなぐ暗黙の了解でもあったのだ。
今、慶一を不安にさせている一番の原因が自分自身にあることを、秋青はよく理解している。
でも、と思うのだ。
人は鏡だから。二人を取り巻く環境ががらりと変わったとき、想いを秘めて言葉にしなければ、不安から相手の気持ちを疑ってしまうのはお互い様だ。
これまでの恋人が皆慶一から離れてしまったのは、慶一がいつも一歩引いて、最後の最後で相手を求めることをしなかったからではないか、とも思う。
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