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第6話

眠る慶一の頬や髪をいつまでも撫でていると、自分の腕の中にすっぽりと収まった体が身じろぎした。 やがて、長い睫毛を震わせて、ゆっくりと開けられたまぶた。上目遣いに秋青を見つめる慶一の瞳は、情事の名残かまだ少し潤んで見えた。 「ごめんね、起こしちゃった?」 頬を撫でる秋青の手にすりすりと顔を寄せる。 その仕草は慶一からすればまったく無意識なのだが、指摘すればやめようとするのが分っているので、たまらなく愛おしいと思うのは、いつも心の中でだけにしている。 「寒い」 すり寄ってきたかと思えば今度は、手を払いのけて、秋青の胸に潜り込む。まるで子猫だ。 「確かにちょっと、今日は冷えるね」 4月も終わりに差し掛かってきていたが、夜はまだ、昼間のぽかぽか陽気が嘘のように冷え込むことも多かった。 服を着るかと問うと、慶一はゆるゆると首を振る。気だるくてまだ体が思うように動かないのだろう。 「……お前の淹れたコーヒーが飲みたい。熱いやつ」 ぼそっと、吐息のように漏らした慶一の一言に、秋青は目を瞠る。 慶一がこんなふうに自分の望みを言うことは、実はとても珍しい。作ってやりたいのは山々だったが、こんな時間にコーヒーなど飲んでは眠れなくなってしまう。 「ホットミルク入れたげるよ」 ただでさえ眠りが浅いのだからよくないと諭すように言っても、慶一はすねて首を振る。 「僕が牛乳嫌いなの知ってて言ってるのか?」 ああまた、眉間にしわが寄っている。まるで聞き分けのない子どもだ。 生姜とはちみつをたっぷり入れて作ってあげるからというと、慶一はそれでようやく納得してくれた。 寝つきが悪く体を冷やしやすい慶一のために、秋青が就寝前ときどき作ってやるドリンク。生姜とはちみつのおかげで牛乳独特の臭みが消えるし、何より慶一は生姜をとても好む。

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