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第13話

けれども、朝も昼も夜もなく、秋青と過ごす愛しい時間が増えてしまえば、秋青がいつか離れて行ったとき、この時この場所に秋青といたんだと、そんなことをいく度となく思い出すだろう。 一緒に眠るなんてもってのほかだ。今はもう届かない、いつかの秋青の熱を探しながら眠りにつく夜なんて、そんな未来は今の慶一にはもう、耐えられそうにないから。 それは全身で、叫ぶように、お前がいないとダメなんだと言っているようなものだと、慶一は気づいているのだろうか。 慶一の細い体を抱き上げて、今度は向かい合うように抱え直して。いつの間にか彼の頬を伝う涙を、やさしいキスを重ねてそっと拭う。 「二人の大切な時間、もう朝のコーヒー、だけじゃなくてもいいでしょう?」 ――これから先のあなたの人生にいつも俺がいることを、どうかもう、許して欲しい。 決まって朝じゃなくてもいい。秋青が慶一のために懸命に覚えた、特別なコーヒーじゃなくてもいい。 こうやって睦み合った後に、生姜の効いた温かく甘いミルクでやさしい時間を過ごしたら、互いの体温を分け合って朝を迎えよう。 そんな幸せな時間をこれから少しずつ増やして、そうやって二人、おじいちゃんになるまで歳を重ねていきたい。 男性しか愛せない慶一が、報われない恋にいく度となく傷ついてきたのは事実で、その過去を変えることはできない。これから先も、慶一の抱える不安や葛藤を、本当の意味で理解してあげることなど、秋青にはできないのかもしれない。 そうだとしても、何度だって伝えたい。俺がずっと傍にいたいのはあなただけなんだ、と。 しゅうせい。と、愛しい人が名前を呼んでいる。 「……お前の部屋は、広すぎて嫌だ」 消え入りそうにか細く小さな、涙にくぐもった声。それでも、今にも零れ落ちそうな滴を両の瞳に(たた)えながら、しっかりと秋青を見つめて。 慶一の言葉ははっきりと、秋青の耳に届いた。 「それじゃあ、慶一さんの部屋が今日から俺たちの寝室だ」 花が咲いたように朗らかに笑う秋青につられて、慶一も泣きながら笑っていた。

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