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バレンタインss

その日、『喫茶淫花郭』は開店時から大いに盛り上がっていた。 客はひっきりなしに出入りし、予約の電話や問い合わせも鳴り止まない。 従業員は慌ただしくテーブルと厨房とを行き来している。 なぜこんなにも大盛況なのか。 それは今日がバレンタインデーだからだ。 喫茶淫花郭。 煉瓦造のモダンな外観から、一見アンティークな雰囲気のする普通の喫茶店に見える。 だが、ここ普通の喫茶店ではない。 巷では「サービスの良すぎる喫茶店」として有名な店なのだ。 ここでいう『サービス』とは、客の要望(メニュー)に応えて、ウェイターやウェイトレスが客の前で淫らな行為を行うこと。 つまり、ここは単にお茶やコーヒーを嗜むだけではなく、破廉恥な行為を楽しむための喫茶店なのだ。 今日はバレンタインとあって、お気に入りのウェイターやウェイトレスからのチョコレートを受け取ろうと客が集中している。 客たちがこぞって注文しているのは生チョコをたっぷり使ったパフェ。 今日はこのパフェを注文すればウェイターやウェイトレスが30分間、本番以外どんな事でもしてくれる事になっているのだ。 普段、客が頼めるメニューは客の持っているメンバーズカードのランクによって決められている。 ランクの低い客はウェイターやウェイトレスに触れるメニューなどは注文できないシステムだ。 しかし、今日はバレンタインの特別企画として、ランクに関係なく平等にサービスが受けられる事になっている。 そのため、客が殺到しているというわけなのだ。 「はぁ…今日のお客さんたち、いつにも増してすごい勢い」 チョコレートやクリームの糖分でベトベトになった身体を拭いながら、ウェイトレスのアオキはため息を吐いていた。 今日は30分という時間制限があるからか、はたまたランクが解放されているからか、客たちのがっつき方が凄い。 大半の客はアオキの身体に生チョコパフェを塗りたくると、鼻息荒く舐めまわしてくる。 中には自分の股間に塗りたくり、アオキに舐めさせてくる客もいるが… 何にしろ身体中をベトベトにされるため、こうして一度休憩室に身体を拭きに来ているのだ。 しかし、戻ればまたすぐにベトベトにされてしまう。 あと何人の客を相手にしなければならないのか。 考えるだけでため息が止まらない。 休憩室にはアオキと同様、汚れた身体を拭くウェイトレス仲間が一人いた。 彼もまた、この尋常ではない忙しさにげんなりしているらしい。 アオキのため息に、ははっと力なく笑った。 「バレンタインだもんね。仕方ないよ。それじゃ、僕は時間だから先行くね」 彼はそう言うと、エプロン付きの短いスカートを翻して出口へと向かう。 その背中に向かってヒラヒラと手を振っていると、扉を開けたウェイトレスが誰かに向かってぺこりとお辞儀をした。 入れ替わりに誰かが入ってきたらしい。 「あ、お疲れ様でーす」 「あぁ」 アオキはドキッとした。 ウェイトレスの挨拶に返事をしたその声で、休憩室に入ってきたその人物が誰か気づいてしまったからだ。 心臓がバクバクと早鐘を打ちだす。 タオルを持つ手に力が入った。

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