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おあずけ 5

「敬吾さん、ちょっと体起こして……」 「?」 ベッドの上に敬吾の上体を起こさせると、自分の膝の上に敬吾の足を載せて抱き寄せ、子供でもあやすように自然に逸は敬吾を抱き上げた。 ぐっと腰を寄せられたのは気になるが、こうして抱きしめられるのは嫌いではなかった。全方向に体重を任せられるのは楽なものである。 特に深く考えず、敬吾は逸にされるがまま自分も楽なように頭を預けて腕を回した。 すると。 ぬく、と妙な音がしたと同時、指を挿し込まれる感触に敬吾は頭を跳ね上げた。 「やっ、何!?なんだよ、まだすんのかっーーー」 敬吾の抗議に、妙に神妙な顔でまた逸は平坦に応じる。 「できるならしたいですけど……、無理なら」 「無理だバカ抜けっ!」 逃げようと試みては腰に回った腕に引き止められて、尺取り虫のように敬吾がもがく。 相も変わらず能面のような顔で、暴れる敬吾を拘束しつつ逸はその中を探っていた。 敬吾の背中はぞくぞくと粟立つ。 「っ……、岩井……っやめろって」 「……………」 「……岩井!」 「……………」 「っ、なん………っやめ、やだ」 敬吾の言葉が拙くなっていく。 聞こえていないのか無視しているのか、逸は応えずに淡々と黙殺する。 ついに敬吾が自ら言葉を飲み込むようになって、それでも溢れてしまう、細い細い吐息の糸のような声が逸の耳には大音響に聞こえた。 その不本意な、自分のものとは思えない声が漏れるたび敬吾は苦しげに張り詰めて肌は赤らんでいく。 「……敬吾さん」 「っ、…………っ」 「ここ気持ちいいでしょう?」 敬吾の肩が跳ねた。ぎくり、と聞こえるほどに。 「分かんないですか?ここ、ほら」 「っ!!…………!……っ」 「違いました?……じゃ違うとこと、ここ、ね?」 「おまっ、えっ、い、いい加減にし……んんっ!」 「言ってくれなきゃ分かんないですもん」 馬鹿振りで言い切って、逸は残酷に拘束の腕を強めた。 その力の必死なまでの強さと指の長さ、逸の言う通りその指先から溢れるような認めたくない感覚に敬吾は絶望的な気持ちになっていた。 自覚していないだけで既にぼろぼろと泣いている。 「やめ、ろって……!たのむ、から」 「気持ち良いから?良くないから?」 「ばかっ、ほんともうやめ……」 「敬吾さん……」 ぐずついてきた敬吾の声音に、逸が僅かに指を引く。 安心したように敬吾が体から力を抜いた。 「………敬吾さん」 必死に呼吸をしている敬吾の髪を撫でて、逸は忠犬には戻りきれずにいた。 この腕の中で、爪弾けば奏でられそうなほど張り詰めている意地も、理性も羞恥心も何もかもかなぐり捨てて欲しい。 むき出しの生身に、素直になって欲しい。 この行為に快感を見出して欲しい。 「んっ!」 「敬吾さん……」 「っや、やめ馬鹿」 「敬吾さん、お願いだから……」 「は?、っなに、何言ってっ、」 こんなに強引なくせにどうしてお前が何かを乞うのかと、敬吾はいっそ腹立たしい気持ちになった。 無自覚な慇懃無礼を押し付けられるような。 だが、苛立ちに目一杯逸の胸から離れてやると、その顔は紛れもなく本心から言っているらしかった。 またも敬吾に折れさせかねない、少々悲しげで所在なさ気なあの顔をしている。ーー同時に、獰猛でもあるのだが。 「っふ……っ」 「敬吾さん、どうしてそんな意地張るんですか?」 「っ、やだ、やめろ……って、」 「なんで……?」 逸の声が悲しげに沈み始めてしまう。 自分をどうしたいのかは、なんとなく分かった。だが。 少なくとも今はできない相談だと、敬吾はまたふつふつ沸いてくる怒りとともに頭の中でだけ饒舌に言い聞かせていた。 「……っ岩、井、ほんともう、やめろ」 わずかに混じっていた甘い響きも鳴りを潜めた敬吾の声に、逸がぴくりと肩を強張らせた。 これはきっと、怒っているーー ーー分かっているのだが、引けない。この機会を諦めるのが惜しかった。 敬吾の鎖骨を唇で食みながら、ぐずる子供のように眉根を寄せて逸は腕に指先に更に神経を注ぐ。 「……どうして?俺、」 「それ以上やったら大っ嫌いになってやる」 乱れているが地を這うような重苦しい怒気の滲んだ声に、逸が沈黙で応える。 欲を張りすぎて引き時を見誤ったのが、大きな間違いであった。 「どけ。寝る。」 「はい……………」 「しゃ、シャワーとか浴びなくて……」 「お前つぎ起こしたらほんとぶち殺すからな」 「すみません……………」

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