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飛んで火に入る
夜半過ぎ。
風呂上がりに台所で水を飲んでいると、玄関のドアノブががちゃがちゃと不穏な音を立てた。
驚いてドアを注視すると、ノブは大人しくなった。
が、続いて、鍵穴が擦られる音がする。
当然合鍵の存在は頭をよぎるが、時間が時間である。
そしてこの手こずりよう。ピッキングでもされているのかと思うような雑音だ。
今からでもドアガードを立てようかとそっと歩み寄ると、破裂でもしたようにノブが回ってーー
「ーー敬吾さん?」
「おす……」
「こんばんは……………」
強く酒が香る。
そういえば今日は飲み会だと言っていたか。
「どうかしました?飲み過ぎちゃった?」
「んん……」
どちらとも取れない返事をする敬吾の額を撫でながら、逸は思わず笑ってしまった。
先ほどまでは少々肝が冷えたしその前は眠かったが。
普段のどちらかと言えば冷たい表情とは似ても似つかない敬吾の顔を見ていると、ただただ愛しくなる。
どれだけ親しい相手にも、連絡なしにこんな夜中に押しかけてくるような人ではないのだ、この恋人は。
「なにか食べます?お茶漬けとか」
「んー……」
またもよく分からない唸りだけで答えて、敬吾は逸のうなじを捕まえた。
そのまま引き下げられて乱暴に唇がぶち当たり、逸は目を見開く。
「ーーーーんんっ、」
逸が思わず呻いた。ーーあまりに情熱的で。
が、その開いた唇にもっと深く食いつこうかと思った瞬間に、あまりにもあっさりと身を引かれ逸はつんのめった。
がくりと傾いだ上半身を、支えでもするかのように敬吾が抱きしめる。
「け……、敬吾さん?」
本当にどうしたと言うのか、この人は。
あまりに困惑してしまって逸は嬉しいだとかときめくだとかを忘れてしまっていた。
ただ困惑しながらも、そっと敬吾の腰に手を添える。
と、敬吾の顔が首元にすり寄せられた。
(うおぉ…………!)
やっと動悸がし始める。
それがひとつ打つごとに、どろついた劣情が体にめぐるようだった。
「敬吾さん、ほんとどうしました?」
「………………」
「ギューしたくなっちゃった?」
敬吾は何も聞いていないようだった。
ただ薄ぼんやりと、逸の体温と風呂上がりの匂いを感じていた。
逸もそれを分かってかしばし何も言わず、にやけながら敬吾を抱きしめていた。
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