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飛んで火に入る 7
ーーベッドが、ごく小さい音で規則的に軋む。
それと同じ律動で、敬吾も小さく声を零す。
一度自らの胸から腹に吐き出した精液はとっくに乾いていた。
一体どれくらいこうしているだろう。
互いの呼吸の音と全身に這う逸の手、生々しいにおい。
それらが感覚の容量をおおよそ奪っていて、敬吾の自我はほぼなくなっていた。
子供のように自分の指の節を軽く食んでいる敬吾を見下ろし笑って、逸はその唇に触れる。
「敬吾さん……、歯型ついてますよ。噛むんならこっち噛んで」
とろりと落ちていた瞼をやや上げて、敬吾は素直に寄せられた逸の指を含んだ。
そして眉をひそめる。
(ーーあ、これ……………)
逸の指だ。
口の中の感覚から体が理解した後に脳がそう処理すると、敬吾の余裕はまたなくなった。
どれほど止めようと頑張っても、先に同じく指を含んだ時へと感覚が巻き戻されていく。
口の中にも、体の中にも逸が入り込んでいて肌には視線がまとわりつくようで、全身がもう、逸で埋め尽くされているようだった。
「ーーん、…………!」
逸の指が僅かに押し込まれ、敬吾の上顎を撫でる。
弛緩していた敬吾の肩がぎゅっと縮こまる。
逸が笑った。
「……敬吾さんここ好き?」
「っんぅ、んーー……!」
答えられない敬吾に気を良くした逸が、更に口の中を細くなぞり上げる。
「ぃだっ!!!」
「ばが!!変なことすんなもー!!!」
真っ赤になった敬吾に噛まれた指を、逸は泡食って引っこ抜く。
敬吾は必死で、投網を手繰る漁師のように、放散してしまった理性を掻き集めていた。
「今更変なことってぇ」
「やることがマニアックなんだよ!!」
器用にも敬吾は逸の肩をがしがしと蹴った。
「あっちょっと敬吾さんそれ……ギュッてなって気持ちい、」
「うるせえ!!!つーか!なんかねちっこいんだけどっ!長い!!」
「ええーーだって敬吾さんが早いとか言うから……」
「頑張れっつってんじゃねーんだよ!!!もうやだこいつ!!!」
「気持ち良さそうにしてたじゃないですかぁー……」
「うっさい!もぉさっさといけっ!!」
「もー……」
すっかり暴君と化した敬吾に大袈裟に困った顔をし、逸は敬吾の脇腹を撫でた。
「んぅっ!?」
「ほらもう。こんなじゃないですか、怒んないで集中してくださいよ……」
「あっちょっ、触んな………っ」
「敬吾さんが無茶言うからー」
「ん……………っ」
「あーもう……かわいい……………」
大虎は今や子猫だった。
せっかく巻き上げた網もまた、快感の波にゆるゆると流されて行く。
逸に撫でられただけで、僅かに深く穿たれただけでこんなにも無力にされてしまう自分が情けなく、恥ずかしくて敬吾は更に赤くなった。
「うぅ、やだ……っ」
「やだ?」
「やだ、はずかし、い」
「なにが?こんなとろとろになっちゃうのがですか?」
目に腕を乗せ、敬吾が頷く。
保育士のように問いかけていた逸は、敬吾から見えないのがこれ幸いと唇を噛み、真っ黒な要望丸出しににやつく。
「どうして?可愛いじゃないですか……俺はほんとたまんないですよ」
「ーーーー………」
「もっといっぱいとろとろになって欲しいくらいです」
言いながらそれを実行させようとする逸の指に、敬吾はまたも思うがままかき乱された。
内腿から骨盤、腹、胸へと柔らかく撫で上げられて敬吾が猫のようにしなる。
連動するように逸を飲み込んでいるそこも強く絡んで締め付けられ、逸の顔は一層悪どくなった。
縊るように喉元を撫で、頬を包んで顔を寄せる。
「可愛い……………」
唇を落とすと敬吾は必死なほどそれに強く応えた。
頼れるものが、それしかない。
逸は嬉しくなって幾度もその唇を食み、脚を畳ませて思い切り繋がりを深くする。
「ん………っ!」
中を大きく抉られて敬吾が苦しげに呻いた。
深く絡んでいた唇を離し横を向いて、一気に駆け上がった心拍数に追いかけられるように呼吸をする。
意外なほど急激に熱を上げた敬吾を見て逸がまた醜悪に笑った。
くっと喉までこみ上げた興味と興奮を裏付けようと敬吾を揺らすと、それが確信に変わる。
「……ねえ敬吾さん、もしかして、俺にさっさといけって言ってるんじゃなくて敬吾さんがイキたい?」
「…………っへ?」
「違います?」
ーー敬吾が真っ赤になる。
逸は生唾を飲み下した。
「ちーー っ違、だって、長い」
「違うんですか?じゃあ俺……時間かかるのは許して下さい」
「へ」
「2回出しちゃってますもん……ねっとりするのもだいすきだし」
「ーー、」
「ごめんなさい」
言葉を失った敬吾は否応なくそれを飲み込むほかなく、にっこりと笑いかけられてーー
ーー肝が冷えた。
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