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主得た犬
逸は、中学、高校時代の友人と連れ立って歩いていた。
背丈も顔も小造りで童顔、まず敵は出来ない類の男である。
桃井虎太郎、逸と並ぶとまるで兄弟だ。
見た目はともかく妙に気が合い、会話がないこともままあるが付き合いの長さゆえ沈黙も重くはない。
その気軽な沈黙を破ったのは逸だった。
「あ、ーー敬吾さんだ」
「え」
その発言に虎太郎はぴんと友人の顔を振り仰いだ。
その視線の先は今まさに入ろうと言っていたファストフード店で、大きな窓に面したカウンター席を注視している。
「敬吾さん」についてはっきりと説明をされたことはないが、逸の口からこぼれる頻度と様子からかなりの自信を持って関係を推測してしまう名前ではあった。
虎太郎の好奇心が疼いたと同時、今まで揃えてくれていた歩調を顧みず逸はさっさと歩き出す。
この身長差だ、遠慮なく歩かれると虎太郎はすぐに置いていかれてしまうが、来るなと言われたわけでもなし、そもそもが入る予定だった店でもある。
文句を言われる筋合いはきっとあるまいーー
虎太郎は、とことこと小走りに逸を追いかけた。
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