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主得た犬 2

「やっぱり敬吾さんだーー」 「……?おお」 虎太郎が逸と数メートルの距離まで近づいた時には、呼びかけられた男が丁度振り向いたところだった。 が、逸の影になってしまって顔は見えない。 それでも虎太郎の気配を感じてかそちらを気にする様子に、思い出したように逸が虎太郎の方を振り返った。 「ーーあ、これ俺の同級生でコタです。こっちは俺の先輩」 「岩居です。どうも」 半身を引いた逸の向こうで、やっと対面を果たした敬吾が形ばかり微笑んで会釈をする。 虎太郎はどきりとした。 別段目立った美形というわけでも声が良いというわけでもないのだがーー綺麗な落ち着きのある人だと思っていた。 なんとなし背筋を伸ばさなければいけない気持ちになるような。 「……あっ!桃井です!こんにちわ!」 虎太郎がペコリと頭を下げると、今度こそは楽しげに敬吾が笑った。 なにかおかしなことをしたろうかと虎太郎はやや赤くなる。 そんなことは毛ほども気にかけずに、逸が話を変えた。 「敬吾さん今日学校じゃありませんでしたっけ?」 「午後休講になってた」 「えー!」 こともなげに言いながらドリンクを飲み干してしまう敬吾に、逸が頬をふくらませる。 「なら連絡してくださいよー、俺暇だったのにー」 「なんでだよ」 呆れ顔の敬吾がトレーを持ち立ち上がると、逸は更に不服気な顔になった。 「敬吾さんどっか行くんですか?」 「いや?もう帰るとこ。お前は」 「えー、えーっ……。じゃあ俺も帰ろっかなあ……」 おいおい、と虎太郎が思ったところで、逸の横脛に軽いが鋭いローキックが決まる。 「桃井くんいるだろ何言ってんだお前」 「痛い……!」 (敬吾さんかっけえぇ……!!) この辺りで虎太郎の心は完全に敬吾に掌握されていた。 逸とは長い付き合いだが、叱責どころかローキックを食らって素直に負かされているところなど見たことがない。 しかもそれが、理不尽ないちゃもんや野次ではなく常識的な指導としてならなおさら。 相当惚れているようだーーと思って、やはり予想は当たっていたかと一人頷く。 逸の態度はもとより、「敬吾さん」はどうも隠しておきたいように見えるが、さっきの「お前は」という簡単な問いかけが何より雄弁だった。 特別な表現ではないことが余計に、ごく自然に一緒に居るのだなと妙に生々しく伝わってきてーー ーーなぜか虎太郎は照れた。 そうしているうち、逸の横をするりと抜けた敬吾が「じゃあな」などと言いながら逸を置いていく。 虎太郎にはまた軽く会釈をしていく様がまた、ダークヒーローのようにすら見えた。 「………『敬吾さん』、かっこいーなあ」 「だろ」 「あとお前はふつーにヒドい」 「いやーー本っっ気でコタいんの忘れてた、ごめんごめん」 「っとに」 じっとりと半眼で不作法な友人を睨んでやってから、ふたり揃ってやっと食事を買い求め、テーブルに着いた。

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