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主得た犬 3
「で、んで?彼氏?なんだよな?さっきのけーごさん」
「そーーだよ」
キラキラと輝く瞳で見つめられ、逸は幾分居心地悪く苦笑いする。
敬吾には犬だ犬だと言われているが、この虎太郎と顔を合わせていると自分など犬でも何でもないと思うのだった。
「なんかすげーちゃんとした人じゃね?俺ゲイの人見る目変わっちゃったよ」
「あのなー」
「あっごめん偏見あるわけじゃないけど、お前くらいしか知らないんだもん。あとタレント」
つまり自分をどう思っていたのだと少々気にならないではないが、虎太郎の比類なき素直さはどうもこういった懸念を放棄させてしまう。
まあいいかと思いながら逸はシェイクを啜る。
出てこない。
「まあなー、普通にノンケだからあの人。内密に」
「ああなんかしっくり来た」
ほんの数分顔を合わせただけだが、あの敬吾さん、からは「しっかり者」の空気が溢れ出ていた。
規範とすべき常識人、とでも言うような。
「お前よく付き合ってもらえたなーー」
「おめーはほんっとに失礼だな!」
「あ、ごめん」
またもころりと謝られ、しかもそれが事実なので逸はそれ以上の抗議をやめた。
「まーそうなんだけどな。あっちこっちから頼られてるわ好かれてるわで俺もー大変」
「へえー、ほんとによく」
「自覚してないからあの人」
「鈍いんだ?」
「鈍いどころじゃない……これでもかってぐらいアピールしまくってやっとうっすら気付いたレベル」
「へえ、つーか、今まで付き合ってたのとは大分タイプ違うよね」
「んー、まあな」
「どーやって知り合ったの?」
「なんだよグイグイ来んなぁーー」
シェイクをがしゃがしゃと掻き回しながら逸は苦い顔をした。
虎太郎はころころと笑っている。
「んだっていっちがそんな従順になってるとこ初めて見たんだもん!すーげーー面白い〜〜」
心底楽しげな虎太郎を、逸はげんなりとストローを噛みながら半眼で睨んでいた。
「面白いってなんだよ……」
「あんなびちって蹴り入れられてさー。俺ちょっと憧れちゃったもん敬吾さん」
「そーだな、お前多分敬吾さんの好きなタイプだよ」
「えぇっ!!?そ、そういう意味じゃない」
「こっちだってそーゆー意味じゃねーよ、敬吾さん子犬とか子猫とか好きだから〜。」
明らかに小馬鹿にしたような逸のニヤついた笑みに、虎太郎はむっつりと唇を尖らせた。
小柄でこの性格、苗字がモモで名前がコタロウと来れば動物扱いに少々敏感なのも致し方のない話である。
「うるせーよ!ちょっと身長よこせよぉ!!」
「ちょっとでいいの?5センチ分けてもまだ10センチ以上離れてるよ?」
「っだーこの高身長もう死ね!!!」
「もう年上のお姉さんたらしこんじゃえばいいじゃんか若いうちに」
「やだ!!コワイ!!!」
「どう考えても性格のほうが問題だよな……」
「カルシウムなの?カルシウムなの!?」
「遺伝だよ。うち家族全員でけぇし」
「養子にしてぇ……」
「コタ、負けんなしっかりしろ」
倍以上に仕返しをしてやって、逸は機嫌よくシェイクをすすっていた。
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