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来し方 6

「え、敬吾あんたなにその荷物」 「帰るよ。母さん車貸して、次の休み返しに来る」 「いいけど……運転なんか久しぶりでしょあんたー大丈夫?明日にしたら?」 母の声を聞いて、河野が寄ってくる。 「敬吾くん、俺送っていくよ」 「いやいや、往復じゃかなりかかりますよ。姉貴またいつへそ曲げるか分かんないし」 「うぅん……ほんと申し訳ない、ありがとね敬吾くん」 「いえいえ、あんなの容赦なくこき下ろしちゃって下さい」 困ったように笑う河野の後ろから、いつの間に移動したのか母がビニール袋をガサガサ言わせながら小走りでやって来た。 「敬吾じゃあこれ飲みながら行きなさい、あとおかずとか持ってって」 「ありがと、……父さんは?」 「寝てる」 「………。じゃ、よろしく言っといてー」 父よ、と思いながら敬吾がドアを開くと、母と河野は英雄を見る目で「気を付けて」とそれを見送った。 「雨かよー……」 久方ぶりにハンドルを握り、高速道路に乗ってしばらく経つと水滴が落ちてきた。 頼むから本降りになるなよと思ったもののそういう願いは届かないもので、今や路面は真っ黒に濡れてライトを反射し、フロントガラスはばたばたと雫に叩かれて視界はすこぶる悪い。 敬吾はため息をつき、目的の降り口への半ばほどでサービスエリアに入った。 軽食とコーヒーを買い求めて腰を下ろし携帯を取り出す。 明日は午後からの講義だから都合が良い。その後店に顔を出してーー ーーそれから。 逸にも、連絡をしなければ。 敬吾の胸の奥がどくりと脈打った。 昂揚したのか痛んだのかは分からなかったがーー敬吾は思わず眉をひそめる。 そして、自分でも意識しないままに逸の連絡先を呼び出してしまってから、慌てたようにそれをやめた。 今から帰りを告げてしまったら、着くまで「待て」をしかねない。 (それはまずい……) 雨も降っているし、ここからだとまだ二時間ーーいや、三時間かかるかもしれない。 それは自分にとっても長い距離だ。 気合を入れてパンを飲み込み、コーヒーの紙コップを持ったまま敬吾は車へと戻った。

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