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来し方 7

見慣れた我が部屋の扉の前で、敬吾は固まっていた。 鍵を差し込み回したら、空回りしてしまったのだ。 それだけならば間違ってしまったのかで済む。逆に回すだけだ。 そうしたら今度はーー鍵がかかってしまった。 「……………開いてた……?」 出かける前に確認しなかっただろうか。良く覚えていない。 大きく深呼吸し、改めて静かに鍵を開け、ポケットに入っていた小銭を一応握りしめ、敬吾は部屋に入った。 灯りは点いていない。 物音も、しない。 思い切ってスイッチを入れる。 狭いキッチンには特に何も変わりはなく、リビングも同様だった。 小さな寝室への戸を引くと。 ーー掛け布団は、あんな状態だっただろうか。 やはりよく覚えていないが簡単にでも整えて出たような気がするがーー 静かに歩み寄ってこんもりと膨らんだベッドを眺める。 (…………まさかな) そっと枕の辺りを捲ると、縮めた肩の間に挟まった逸の頭が出てきた。 「やっぱりかよもぉーーーーーー!」 がっくりと両手をつき、大きく息を吐き出す。 「びっ……びらせやがって!なんでここで寝てんだよこの馬鹿……!」 敬吾の嘆きは、平和そうに眠っている逸には届かない。 そのアホ面とも言える顔を呆れたようにしばし見つめて、敬吾は母に持たされた惣菜の類を冷蔵庫へに仕舞おうと扉を開けた。 その中に。 きんぴらやら、煮物やら日持ちの効くおかずがタッパに詰めてある。 「………………」 何とも言えない気持ちで扉を閉じると、「ごはんは冷凍庫にあります!」とのメモ。 「………………オカンだな」 笑ってしまって、しばしそのまま。 さて、眠ろうかシャワーくらいは浴びようかと考えるがーー (寝よ……もーだめだ疲れた) 一緒に眠る逸には、汗も流さないままで申し訳ないが。 その体を容赦なく押しのけて布団を引っ張り、肩甲骨に顔を押し付けるようにして敬吾は目を瞑った。 眠っていても高いその体温が、雨と夜風で冷えてしまった体に沁みて気持ちが良い。 大の字になっては眠れないし布団もやや足りず、外気が入ってきているが妙に安心する。 鼓動が僅かに強く打ったことで、いつの間にか浅くなっていた呼吸も深くなった。 「…………岩井」 敬吾が掠れた声で小さく呼ぶが、当然逸は起きなかった。 澄ませた耳には平和な寝息が届くばかりで、敬吾が笑う。 そして今度こそ、張り切って眠ることにした。

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