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行く末 2

そうか、やりすぎていたのか。 家路を歩みながら敬吾はぼんやり考えていた。 (やりすぎ…………?) とは言っても自分は何もしていない。 そう言えば当日は平手を食らわせたような気もするが。 それ以降はただ接触しなかっただけだ。 それが、やりすぎだったのだろうか……。 (まあさっちゃんも何があったか知らないけどとは言ってたしな) 一から十まで説明してもやはりそう言われるのだろうか、いやもっとやれと言われるのだろうか。 分からなくなってきた。 と言うか、何かアクションを起こすべきなのは逸ではないだろうか。 (まだ何も思い出してねえのか?) そう思うとまた少々腹が立ち始める。 ということは、今までは立っていなかったということなのか。 (………んんーーー………?) 思わず立ち止まり首をひねってしまう。 いつの間にかアパートのエントランスまで来ていたようだ。 思案は諦めて部屋に入り電気を点けると、そこはもう問題の現場だった。 やはりため息は出る。 だがそれよりも腹が減っていた。 (何か食ってくればよかったな……) ここ数日そう考えることもままあり、そして久方ぶりのことだった。 逸に予定がない限りは夕飯は作ってもらっていた。 敬吾の方はそれほど料理はしないので、逸が買い込んだ食材がいくらか冷蔵庫の中に残っている。 そういった使い道のよく分からないものはあるのに、飯は炊かれていない。 敬吾はまたため息をつく。 手間が掛かるのはともかくとして、単純に自分の料理はさほど旨くないのだ。 決して不味くもないのだが、やはり逸のものと比べてしまう。 それがまた腹立たしい。 上着をしまいながらとにかく米を炊こうと思い台所に戻る。 そういえばあの日、逸は夕飯を作って自分を待っていたはずだ。 それを見ることもなくこの部屋に引っ張り込むことになってーー ーー当然、用意された食事は翌日までそのままだったはず。 (あ………………) つい今まで忘れていた、あの朝の出来事が蘇る。 頭の中に津波が起きたようで敬吾はシンクに手をついた。 あの時も、逸は素直に待っていると言った。 何度も堪えきれないようにキスをして、豪華な夕飯を作りますねと笑って、手を出してしまいそうだからと言って帰った。 そう言えば、敬吾の母の料理があると聞いて嬉しそうにもしていたーーーー 「……………あれやべえ…………」 胸の奥がどくどくと脈打つ。 突如として、この状況を打開せねばと急き立てられるような気がしていた。

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