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行く末 7
「ーーーーんっ、ぁ……、っあ……」
泣いているような敬吾の声が小さく響く。
規則正しく揺すぶられ続けて、声を堪えようと試みる暇もない。
また、試みたところで無駄なようにも思えた。
決して激しく打ち付けられてはいないのに、熱くて濃厚な快感がどこまでも溢れ出て、為す術もなくその快感に揺らされることしかできない。
それは逸も同様だった。
敬吾の声と表情、感触にすっかり陶酔してしまっている。
この空気、快感にいつまでも浸っていたいような、そう望むと望まないとに関わらずそうするしかできないようなーー曖昧な、しかし強烈な動機でただゆるゆると摩擦だけを繰り返した。
いつもならば丹念に施す愛撫もできない。
余裕がない。
この行為だけで回線が手一杯だ。
それほどに快感は大きいし、目も耳も敬吾を感じ取ることに神経の全てを注いでいた。
他にはせいぜい、思い出したように唇を貪ることしかできなかった。
それがまた、頭のどこか冷静な部分を酩酊させては二人して現が分からなくなる。
「ん…………、っ逸、」
「はい……?」
その現実味のないとろりとした空間に、敬吾がいくらか緊迫した声を零す。
吸い付くような絡みつくような感触だったそこが急にきつく締め付け始めて、逸が耽美に笑った。
「いきそう……?」
「ーーん、あ………、」
素直に頷く敬吾はきつく目を瞑り枕に横顔を預けている。
迫ってくる快感に翻弄されて苦しげに暴れる呼吸をなんとか御し切ろうと苦戦しているようだった。
逸としては、それをぶち壊してやりたくなる。
突如激しくなる律動に敬吾は逸を振り仰いだ。
「や………!っちょ、逸っ、あっーー」
「可愛い……、も、たまんね……」
「んーー…!逸っ、だめだってっ、っあ、」
敬吾が上体を捻って枕を掻き抱き顔を押し付ける。
ああ、顔が見えない……と逸が残念に思ったところで、引き絞るように締め付けられる。
敬吾がきつく堪えた声を零した。
敬吾が果てても逸はまだ激しく穿ち続ける。掠れきった声で抗議されるが、聞きもしない。
頭のどこかで聞いてはいるがーー快楽に溺れきった体が勝手に動いてしまう。
藻掻く敬吾の脚を抱え込んで動きを封じてしまうと、思う存分突き上げて欲望を吐き出した。
我が身の中で逸が痙攣する感触に、敬吾が目を細めて泣き出しそうに眉根を寄せる。
逸は余韻に浸るようにゆるゆると腰を揺らしていた。
半端に理性が戻ってきて、その妙に冷静な動きが余計に生々しい。
耐え難くむず痒い気持ちで敬吾がぼんやりと逸のつむじと鼻先を見下ろしていると、間の悪いことに逸がその視線に気づいた。
敬吾を振り仰いで視線が合うと、陶酔しきっていた表情をとろりと笑わせる。
「…………!」
「敬吾さん…………」
幸せそうに笑ったまま逸が敬吾の上をずり上がった。
よいしょ、などと言いながら唇を合わせる。
「ん………、」
「きもちよかったー……、ですねえ」
「ん、んぅ……」
まさか同意を求められるとは思ってもおらず、敬吾が言葉に詰まる。
逸はそれを気にする様子もなくぽふりと枕に頭を落とした。
「うー……幸せ……」
「…………ん、」
長閑に目を細めて敬吾の髪を撫でながら、逸はのんびりとその顔を眺めていた。
長いこと、本当に長いことこんな顔が見たかった。
快楽にのぼせていて、それが少し悔しそうで。
けれどあどけなくて眠そうで、瞳が潤んでいてーー
(あれ……)
重たくなってきていた瞼を軽やかに瞬かせて、逸は改めて敬吾の顔を見直した。
敬吾は物も言わずとろりと逸の喉あたりを眺めている。
ーー珍しいことに、あまり眠たげに見えない。
「ーー敬吾さん、」
「……お前、眠くなってる?」
「え………、」
ぽそりとそう問いかけられ、逸は頭を持ち上げた。
敬吾が上気した顔をほんの僅かに上げて真っ直ぐに逸を見る。その目が、熱っぽく潤んでいてーーーー
「敬吾さんーーーー」
「………………」
「ーーーーもしかしてもう一回したい?」
「ーーーーーー」
しばしの間を置いて、敬吾が小さく頷いた。
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