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悪魔の証明 13
パーカーとシャツを脱ぎ、逸は叩きつけるように床に放り投げた。
敬吾が青ざめた苦笑いしか浮かべられない程度には、恐ろしい。
そのまま絡め取るように睨めつけられ、敬吾の顔は更に引き攣る。
「あーもう………………、どうしてやりますかねえ!この唇!!」
「うぅ……」
逸の親指がむにむにと敬吾の唇を押した。
これが怒り半分、窘め半分なのは痛いほど分かっているがそこに触れられると不快感が雪がれるようで、敬吾は無意識にその指に唇を寄せた。
逸が肉食獣のように凶悪に目を細め、内心舌打ちを零す。
「敬吾さん、携帯出して」
「んぅ……?」
唇の感触に浸ってしまっていた敬吾が驚いて視界を広げると、逸が鬼気迫るような顔をしていて後ずさってしまった。
「携帯。」
「携帯……?」
それこそ、やましい事は何一つないのだが。
不可解すぎて怒りの欠片すら覚えず、敬吾はポケットから端末を出すと素直に手渡す。
やはり冷たいままの表情で逸はそれを起動させた。
「着信拒否しときます、戻したかったら明日戻して。何て登録してあんですか?」
「ご、ごとーで……」
「……………。はい」
手早く設定し終えると逸は敬吾の肩を押し、ベッドに腰掛けさせる。
そのまま唇を塞ぐと敬吾が縋り付くように吸い付いてきた。
雪崩込むように押し倒して長いこと蹂躙してやり、僅かに顔を離すと犬や猫のように敬吾の唇を舐める。
敬吾は緊張なのか興奮なのかよく分からない大音量の鼓動とその感触に沈んだ。
逸に触れられてもいつものように手放しに安心は出来ないが、毛色の違う昂りにとっくに飲み込まれてしまっている。
「ーー敬吾さん。見てこれ」
「へ………、」
逸はまだ敬吾の携帯を持っていた。
冷めた顔で画面を敬吾の方に向けており、そこに表示されている蕩けきった表情の人物は、まぎれもなく敬吾自身でーー
「え……………っ」
驚愕と羞恥でとっさに表情を正すが、それが端末に反映されるまでのごく僅かなタイムラグがどこまでも延びきって感じられた。
薄赤く上気していて、弛緩しきってはしたない、陶酔したような顔ーー。
敬吾が思い切り顔を背けると逸は携帯を適当に放り投げる。
クッションか何かに着地したような音と、非難めいた小さな電子音が聞こえた。
「分かりました?敬吾さん俺に甘えてる時あんな顔してるんですよ。してる時はもっとエロいんです、心配になるのも当然でしょ」
「し、してない………っ」
「分かりませんよ。自覚ないのに本当にずっと気付けてたって言える?今日だって隙見せたからこんなことになってるんですよね?」
「ーーーーーっ」
敬吾には何も反論できない。
万が一にも逸以外の人間にあんな顔を見せているはずがない、絶対にない。
どう言ったら分かってもらえるのだろう、そう思うのだがーー。
「……敬吾さん、舐めて」
逸がベルトを緩める。
敬吾の顔がきゅっと赤らんだ。
普段逸はこんな傲慢な物言いはしない、少しだけ怖い。怖いのだが、何故胸の底が疼くのか。
ジッパーを下ろして逸が促すと、敬吾がその中に顔を埋める。
下着越しにそれが反応するとまた胸が疼いた。
「……ほら、その顔。ほんっとエロい…………」
「………………っ」
耐えられなくなったように敬吾が逸の下着を下げ、擦り付けるように唇を落とす。逸は顔をしかめてそれを食い入るように見つめていた。
少なくともこんな風に咥え込ませられるのは、自分だけのはず。
そんな下卑てくだらない優越感が、今はどうしても必要だった。
「……っ、ふ……っ」
「良い子ですね、敬吾さん…………」
逸のものが半ば立ち上がると、敬吾が苦しげに呼吸を乱す。
擽るように喉元を撫でてやるととろりと目を細めて、まるで猫だ。
「じゃあ、敬吾さん今日は自分で脱いで」
「………………」
敬吾は何も応えないが、素直にニットとシャツを脱ぐ。
不安げに上下している胸の先端に逸の指が触れると、小さく鋭い声を漏らして肩を縮めた。
逸が口の端だけで笑う。
「っ、や……」
「…………脱いで」
「ーーーーっ」
手間取りながらも敬吾が全て脱ぎ落とすと、逸がその肩を強く押した。反射的に敬吾が抗う。
「敬吾さん?」
「っ、」
そう問う逸の声が表情があまりに冷たく、敬吾はまた肩を縮めた。
呼吸が早くなる。
「岩、井、待って……一分だけ」
「…………?」
訝しげな顔をしながらも逸が敬吾の肩から手を落とすと、敬吾がほっと呼吸を逃した。
ーーどうしても不安だった。
おずおずと逸の背中に腕を回す。
その胸に頬を付けると逸が目を見開いた。
逸の腕が背中を抱き、敬吾がきゅっと切なく目元を細める。
自分勝手は承知だがどうしても、こうしてほしかった。
今どれくらい経ったのだろうかと考えながら呼吸を整え、そっと腕を解く。
「……………ありがと。あとは、好きにしていい……」
「ーーーーーーっ」
言葉もなく、逸が激しく敬吾の唇を奪う。
そのまま組み伏せられて敬吾は必死に逸の背中に腕を回した。
苦しいが、こうして激しく嬲られていないと感触が消えないような気もした。
「ーーー敬吾さん」
「んっ、んっぁ……っ!」
激しく、性急で直接的な愛撫に敬吾が藻掻くように声を零す。
意識は取り残されているようでも体が確実に引きずり込まれていく。
体の中を掻き乱す逸の指にも、泡を食いながらも順応していった。
「ん………!っ逸、や………っや、っ…………!」
「……敬吾さんは、俺のものですよ」
「っあ、んん…………っんー………!」
容赦なく、超過気味に与えられる快感に翻弄されながら敬吾はそれでも逸の声を捉えていた。
ーー分かってる。
分かってる、分かってる、分かってる。
逸の言葉とその応えが溢れ出しそうに胸を圧迫して、それでも声にならない。
「や……っあ!あ、………っ………!」
「ふ……、ほんっとエッチな体になりましたね」
「っ……!んーーー……!」
それも、お前がしたんだろう!
その思いと快感がこみ上げて敬吾が仰け反る。と、淫猥な音を立てて逸の指が一気に抜き取られた。
「んんっ……!!ゃ、あ……!や………っ!」
「イくとこでしたよね?あー……、ここ凄い、痙攣して……」
「んっ、んんぅ…………っ!!!」
引き攣るそこを焦らすように撫でられ、張り詰めてただただ膨張していく快感がもはや苦痛に感じられる。
敬吾はただ体を固く丸めて必死に呼吸だけをしていた。
「敬吾さん?イキたいの?」
指先はそこを弄んだまま、逸がぐっと敬吾に伸し掛かる。敬吾は必死で頷いた。
満足そうに笑うとまた上体を起こし、逸は固く閉じられた敬吾の腿を割り開く。
「敬吾さん、こっち見て」
「………………っ、」
体中全て力んでいないと気が触れてしまいそうで、敬吾は瞼を上げるのにも苦労した。
やっとのことで言われたとおり、自分の足の間にいる逸の方へと視線を泳がせる。が、涙ですっかり滲んでしまってよく見えない。
こちらを見ている敬吾の従順さに逸が満足そうに笑う。
そうして、すっかり固く立ち上がった自らのそれの根本を揺らす。
「ーーおねだりして?」
「…………!ぁ…………っ、」
「上手に言える?」
「ぁ、……やー……」
逸が悪どく苦笑した。
そしてそのまま、握り込んだものを摩擦した。
敬吾の眉根が、不思議そうに、悲しそうに歪む。
乾いた音がゆっくり重なっていくほどに、敬吾の表情は絶望した子供のような明け透けな泣き顔になっていく。
逸は何も言わないが、言いたいことは火を見るより明らかだった。
「…………や、やだーー…………」
「やだ?何が?……ん、」
「や……!だめ、逸っーーーー」
「じゃあ、どうして欲しいか言って」
ひきつけのように敬吾が鋭く息を吸う。
それは体のどこに収められたのか、一向に胸は楽にならなかった。
乾いていた摩擦音に、ふと湿ったような音が混じる。
「や、ゃ……逸ー……入れて、ほしいっ……」
「誰のを?」
「いちの………!」
「もう一回ちゃんと言って」
「…………っ!逸の、が……ほしいー……」
逸が、くっとはねつけるように悪どく笑った。
鼻に皺を寄せ、牙を剥く野犬のように。
「敬吾さん、良い子…………」
「あ…………!」
「凄い締めてますね」
「あっ、あっ…………!」
すっかり固く閉じられた体にそれでも捩じ込んで行くと、敬吾が切なげに撓る。
震える太腿の付け根を抑え込んで強く引き下げ奥まで貫くと、敬吾は半ば叫びかけながら果てた。
痛々しく痙攣している太腿を開かせ、逸がその上に伸し掛かる。
「敬吾さん」
敬吾は虚ろにどこか部屋の隅でも見つめながら、ただ必死で呼吸をしていた。
「敬吾さん、気持ちいい?」
敬吾が緩慢に、それでも必死に頷く。
「もっと気持ちよくしていい?」
「っ!?だめ、今……だめ…………」
「じゃあ抜く?」
「っ、やだ、ぅ………」
「わがままですね」
逸がわざと冷たく苦笑いすると、敬吾は必死にその首を抱いた。
まともな意識などはとうに無く、よく分からないが逸に言わなければと思っていたことが箍でも外れたように幼く溢れ出す。
「いち、逸っ、おまえだけ、だから……他の誰とも、しない」
「!?ちょっ、何言って……当たり前でしょう、」
「ちが、ちがう……、したくない、おまえじゃなきゃやだ、」
「ーーーーーー」
「っから、っう…………」
その先まできちんと聞きたかったのに、逸は堪えきれずに敬吾の口を塞いだ。
性急に舌が絡み合い、敬吾に至っては涙も溢れて溺れてしまいそうだ。
激しい嗚咽のような呼吸に、どうにかこうにか顔を離す。
「敬吾さん………そんなこと言われたら俺…………」
自分が何を言ったのかも、何を言おうとしたのかも分かっていない敬吾はぽかんと逸を見上げている。
「余計我慢できないじゃないですか…………っ」
「…………………へ……」
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