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悪魔の証明 15
「…………敬吾さーん」
「んー……」
「俺バイト行ってきますからねー」
「んー……」
「ご飯、冷蔵庫に入ってますからねー」
「んー……」
「アイスとかお菓子も好きに食べてくださいねー」
「んー……」
「誰か来ても出なくていいですからねー」
「んー……」
「知らないおじさんが来ても開けちゃダ」
「うるせえ早く行けっ」
「はい…………」
ぐったりと枕に沈んだままの頭を撫でて額にキスをすると、逸は後ろ髪を引かれる思いながらも玄関に向かった。
靴を片方履き終えたところで、背後から掠れた声で敬吾が呼びかける。
「はい?」
何か言い忘れたことがあったろうか。
振り返ると、敬吾は気怠そうに頭と肩までだけを辛うじて逸の方に持ち上げていた。
「……行ってらっしゃい。」
「ーーーーーー!」
ハイカットのスニーカーなど履いていた自分を、逸は心底呪った。
もがもがと靴紐を緩めて足を引っこ抜き、半ば走って数メートルの距離を戻る。
苦笑している敬吾の髪を掻き上げて乱暴に口付けると、まだ目の覚めていないらしい様子でのんびりとした唇が返ってくる。
無理に舌を捩じ込むと困惑したような吐息が漏れた。
そうしているうち、窘めるようにくしゃくしゃと敬吾が逸の頭を撫でる。
名残惜しそうに唇を離し、逸は心底寂しげな顔をしてみせた。
「……………行きたくないぃ」
「アホ……。行ってこい」
「はいー………」
逸の唇が敬吾の瞼に触れる。
敬吾は微笑ましく笑っていたが、それがあまりにも長くしっとりと食みながら離れていくので深くにも赤くなった。
完全に海外映画の世界である。
「ーーーーーーーっ、」
「…………行ってきます」
「お、おう…………」
逸がとぼとぼと出かけて行っても、敬吾の動悸はしばらくおさまらなかったのだった。
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