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褒めて伸ばして 24

「ただいま」 「お帰りなさーい。敬吾さん、今日餃子なんですけどー、揚げと焼きと水どれがいいですか?」 「ーーーーー」 「?……敬吾さん?」 「…………あ、じゃあ……焼きで」 「了解です」 呆気にとられた様子の敬吾に微笑んでそう返し、逸はまたボウルに向き直った。 それを、敬吾はやはりぽかんと見つめている。 「お前……どうかした?」 「へ?」 また逸が振り返る。 敬吾はまだ靴も脱がずに突っ立っていた。 「どうかしたって……?」 「……いや、なんか」 もう少し、こう。 泣き付かれるなり、ぎらついた目で見られるなりするかと敬吾としては思っていたのだ。 「……………悟ったか?」 「なんすかそれ」 逸はやはり爽やかに破顔するのみ。 ここまで来ると誰ぞ知らない青年のようだ。 「敬吾さんそれより手伝ってー、餃子一緒に包みましょー」 「ん、うん……」 やっと部屋に上がって手を洗い、敬吾は逸の横について餃子の餡を包み始める。 近くに寄っても逸はごく温和だった。 「敬吾さんて器用ですよねー」 「あー、手先はまあ……」 「ぶふっ」 「!?」 「や……、餃子って無になりますよね」 「あ、おう……」 「さてと、じゃあ俺第一弾焼き始めますねー」 「うん……」 そう言ってフライパンを取り出す逸はやはりごく和やかに機嫌良さそうで、敬吾は首をひねりひねり餃子を包み続けた。 「このフライパンそろそろやばそうですよね」 「あー、もうテフロン剥げてるな」 「鉄鍋買っちゃおっかなあ……」 「鉄鍋?」 「中華鍋とか、鉄のフライパンとかそういう」 「ふうん……?」 「劣化するってことがまずないらしいんですよ。で、なんでも美味くできるらしいです」 「えっなんで?」 「熱伝導がどうとか?強火で炊きまくっても大丈夫だし」 「ああなるほどな。……よし、包み終わったぞ」 「ありがとうございます、もーちょいで食べれますよー」 「うん」 敬吾が皿の用意などしているうちに逸は餃子の二回戦目の焼きに入っていた。 「随分食うな」 「なーんか最近食欲がやばいっす」 「だよなあ、ちょっと太ったもんな」 「えっうそぉ!?」 「うそ」 「…………………」 逸を見もせずリビングに皿を運んでいく敬吾を恨めしげに睨み睨み、逸はやはり焦げ付いてしまった餃子を皿に移す。 「……まあ、今日までですけどね?こんな食うのも」 「?」 戻ってきていた敬吾が首を傾げると、逸はいかにも意地悪気な横目を流した。 「明日。敬吾さん休みですよね?俺早番です。」 「ーーーあ、おう……」 「明日はさっちゃんに泣かれても残業しないでそっこー帰ってきますから。ちゃんと居て下さいよーーあ、俺の部屋にですよ」 「う………………」 ーーやはり、猫を被っていただけだったかーー。 それであの完成度とは恐ろしい。 敬吾がそろそろとリビングへ行きコップを置くと、がばりと肩を抱き竦められる。 心底驚いてその腕を掴むと、噛み付くように首すじを食まれた。 「んっーー……」 「……今日は」 「うぅ……?」 「一緒に寝て、いいですか?」 「う、んぅ………」 また逸が充電されるまでそうして嗅がれ、舐められしてやっと開放される。 餃子の味は、ほとんど分からなかった。

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