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彼の好み リベンジ 2

「あっ、敬吾さんお帰りなさいー!ちょ、聞いて下さいよ俺5年売れ残ってたって言う積み木今日売ったんですよ!褒めて褒めてー」 ドアを開けるなり駆け寄って来てまとわり付く逸を、敬吾は呆れたような半眼で見やった。 こんなどうでもいいことは事細かに報告するくせに、この馬鹿は。 「お前。」 「はいっ?」 地を這うような声に、敬吾の手を握ったまま逸は半冷凍程度に固まる。 きれいな半月型だった口が、しゃりしゃりと閉じられて最低限笑顔と言えるところまで落ち込んだ。 「誕生日先月だったんだってなあ?」 「あぅ、はい」 「はー……、言えよ。言わねーんなら俺にもしなくていーんだよ」 「………………」 逸があからさまに眉を下げる。 難しそうに力の入った眉間と口元が、泣き出す直前の子供のようで敬吾は内心俄然焦り始めた。 「ごめん、言い過ぎたーー」 「………………」 「悪かったってば、……岩井!」 「………………今のはひどい」 「ごめんって、拗ねんな」 「………………」 気を引こうと故意にそうしているわけではなく。 未だ浮上しない心色そのままに瞼を伏せている逸の頬を敬吾が撫でてやる。 そのまま髪に手を差し入れ、後頭部を引き寄せてキスを試みると、逸は存外素直にそれを受けた。 一度顔を離して伺った逸の顔がまだ不穏なのでまた顔を寄せると。 逸の愁眉が開きーーそしてまた慌てたように顰められて、敬吾の肩を押した。 「ちゅ………っチューでごまかそうとしたってダメですから!!!!」 「ダメなんだ」 「何を開き直ってんすか!!!!」 「じゃあどうする?」 敬吾が薄い上着を脱ぎ、逸がぐっと息を呑む。 惑わされるな、これは帰宅したから上着を脱いだだけだーーーー 「どうっ、………そういうことじゃないでしょ!?」 「誕生日を全く気にしてなくてすいませんでした」 「ぐっ…………余計傷つく………!!!」 「俺なんかずっとこんなもんだろうが。だから素直に言やあいいってのに」 「ちょーーーーどその頃は、後藤さんの件でごたついてたように記憶してますけど?」 「…………………」 逸は取り敢えず、敬吾に後藤への刹那的な憎悪を抱かせることには成功した。

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