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彼の好み リベンジ 6
「敬吾さん、誕生日のなんですけど」
「おう」
少々だらしなく携帯を覗いていた敬吾が顔を上げて逸に体を向けた。
くるりと目を丸くして明るくなったような表情が、逸の頬をどうしようもなくゆるませる。
「来週の火曜、バイトの後外で一緒にご飯食べたいんですけど……………」
「………………。
……………おう?」
よい子の小学生のようだった顔を大きく傾げて敬吾はカレンダーを見上げた。
その日は逸が言っていた誕生日の月違いでもなく、随分半端な指定である。
「……なんでその日?次の日とか定休日だしその方がいいんじゃね」
「えーっと、ここ行きたくてーー」
逸が携帯の画面を敬吾に向けた。
「で、これ食いたいんですけど夜しか出してなくて。ちょっと遠いし、それなら次の日が休みの方がいいかなーって」
「あー、なるほど……」
敬吾が端末を受け取って色々とリンクを辿る。
さほど高くも気取った店でもなく、多国籍料理を大皿で、という雰囲気だ。
逸が食べたいと言ったのも豪快なシュラスコである。
「美味そうじゃないですか?ご飯ものもいっぱいあるし。パエリアとかガパオとか。こういうのって俺作ったことないし」
「まあなあ……」
酒や一品料理の品揃えも豊富で敬吾も行ってみたいとは思う、のだが。
この機会でいいのだろうか。
こういった気軽な店ならば、今までにも何度か二人で出掛けたことはある。
「いいのか?そんなんで」
敬吾が拍子抜けしたように眉根を寄せると、逸は嬉しげに破顔した。
「いいですよ!やったー」
にこにこと携帯を受け取り、アクセスの確認しておきますねーなどと言いつつ逸は上機嫌である。
敬吾はやはり不思議そうに瞬きしていた。
(いーのかほんとに…………)
やはり何か、他にプレゼントでも用意しておくべきだろうか。
逸の喜びようが、あまりに殊勝すぎる気がした。
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