225 / 280

アクティブレスト 15

「もしもし」 『あ、岩居さんおはようございます。笹木です、出勤前にすみません』 「おはよう、いいよどうした?」 『今ですね、事務局の人が来てサイジ?のことで聞きたいことがあるとかで』 「あー、なんて?」 『えーっとレンタルのワゴンが数厳しいかもしれないと』 「数減らせってか……、んじゃ俺今から行くから、それから連絡するって言っといてくれる?」 『えぇ!いいんですか?』 「いいよ、暇だったし」 部屋にいたところでできることがあるわけでもない。 手早く支度をし、炊飯器の予約だけして敬吾は部屋を出た。 「まぶしー……」 外に出ると、朝はもう少しぐずついていた気がするが今日は梅雨晴らしい。 暑くなりそうな空の青さが目に痛いほどだった。 数分後、同じ場所で同じ感想を逸も口にする。 「こっち晴れてんなー……」 ポケットからキーケースを取り出しながらエントランスをくぐり、箍が外れたように独りごちつつ逸は歩いた。 「あー……散歩とかしてえな、海とか公園とかー……」 「弁当持ってー……クレープとか買ってー……敬吾さん日焼けしましたねーっつって…………」 エレベーターを降り、またたらたらと歩いて鍵を差し込んだところで少し静止する。 「……いやできるわけねえわ」 正気に戻ったらしい。 そしてその正気はドアを開けた瞬間に、敬吾がいないこともなんとなく理解させた。 「あーくそ…………」 一応呼びかけてみるもやはり梨の礫になる。 湿ってはいるが明るく澄んだ空気がいやに暗い気分にさせて、ため息をつき逸は時計を見上げる。 「ーーーーあれ?」 シャワーを浴びて。 何か食べて。 支度をして。 「ーーーーあれ?」 ーーシャワーを浴びて。 急いで支度して。 指折り数えるとーーー 「………………」 ーーー恐らく、遅刻だ。 「やべ……、なにしてんだ俺、」 慌てて携帯を取り出すと、折よく篠崎からの着信。 「もしもし」 『逸くんおはよう。今日さーー』 「あ、いや待ってください、店長俺ちょっと遅れそうで……」 『そうなの?いや、ゆっくり出てきていいよって言おうと思ってたんだよ。ちょうどよかった』 「え?」 『ほら昨日で押してる仕事は結構片付いたでしょ。ケースの着までは他のスタッフの子たちとやっておくから』 「ああーー……」 たしかに篠崎の言うように、とりあえずは単純作業しかない。 目先のことだけ考えれば有り難い気遣いではあるがーーー 「ーーいや、大丈夫ですよ。ちょっと遅くなりますけど準備したらすぐ行きます」 『………そう?』 「はい。1時間くらいで行けると思います」 『そっか、……じゃあ、気を付けてね』 「はい、お疲れ様です」 敬吾のいない部屋で数時間休むよりも、その間少しでも仕事を進めて早いところ落ち着きたい。 その気持ちの方が強かった。 とりあえずは無理に急がなくていいのでーー シャワーを浴びたら、これを食べることにしよう。 小鍋の蓋を開けてみて、逸は今日初めて少し微笑んだ。

ともだちにシェアしよう!