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アクティブレスト 16

「おはようございます、すみません遅くなっちゃって……」 「あ、岩井さんおはようございますー」 「えーっと俺どこ入りますかね………あれ?店長は?」 「それなんですけど、ちょっと大変なことになってて……今電話してます」 「え」 また嫌な雲行きだ。 逸が渋い顔をしたところへ、似たような表情の篠崎が戻ってくる。 「あ、店長おはようございます」 「逸くん、おはよう……やー参った」 「なんですか今度は……」 「U県で事故あったの知ってる?かなり大きい……道路が冠水と陥没で大変なことになってる」 「えっ、そうなんですか?」 「俺もさっき知ったんだけどね」 揃いも揃って浦島太郎状態である。 「で、まだ天気も荒れてるから渋滞が凄くて。配送車がそれに巻き込まれてるみたい」 「え………」 「いつ届くか目処立たないって……代替品用意できないかって言ってみたんだけど、あんだけ大きいのだと急には……っていうか今日でもかなり急いで用意してもらったやつだしね」 「…………………」 海外の俳優のように、篠崎は腕を組んだ後ゆっくりと顔を擦った。 大袈裟だが気持ちは分かる。 逸も同じように苦り切った気分だった。 「どーーーしよーーかね………俺もう、思考停止してる」 「俺もです………」 《ごちそうさまでした。美味しかったです!》 休憩に入り携帯を立ち上げると、しばらく前に逸から短いメールが入っている。 一度帰っていたらしいーーなんとタイミングが悪いのだろう、と考えて敬吾ははたと真顔に戻った。 会いたかったのだろうか。 「…………………」 思索と感情に沈んでしまいそうになったところへ、視線の途中にぼんやりと置いていた携帯が鳴り始めて仰天する。 ばくばく言っている胸を抑えつつ、敬吾は携帯を耳に当てた。 「も、もしもし?」 『あ、敬吾さん……おはようございます』 「おはよう」 『早速なんですけど、遅くなりそうです』 午前中からそれが確定しているとは。 「また何かあったのか」 『ショーケース搬入できなくなっちゃって。もう完全に手詰まりです………それに合わせて段取りも棚も組んでたんで』 「え、じゃあ…… …………どうすんの?」 『どうなるか……店長と話し合ってるんですけど、完全に行き詰まってて。ちょっと頭冷やしてるとこです』 逸の声が聞いていて痛々しい。 疲れて、乾いて、ささくれた声だ。 どうしようもなく撫でてやりたくてーーー 敬吾の手が、もどかしく空をふらつく。 言葉だけでもとは思うのだが、軽々しいことは言えない。 慰めであれ、傍観者に分かったような口を聞かれたくはないだろう。 頑張っているのは篠崎と逸とスタッフ達でーーその労働の一割も理解できているかどうか怪しいのだ。 もはや無理をするなとさえ言えない。 『えーーっとまあ、そんな感じです』 「ーーうん。岩井」 『はい』 「待ってる」 『?』 「今日は起きて、待っとくから」 『ーーーーー』 「……じゃあな」 通話を切り、敬吾はテーブルに腕を組み顔を埋める。 逸は、呆然と携帯を眺めていた。

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