226 / 280
アクティブレスト 16
「おはようございます、すみません遅くなっちゃって……」
「あ、岩井さんおはようございますー」
「えーっと俺どこ入りますかね………あれ?店長は?」
「それなんですけど、ちょっと大変なことになってて……今電話してます」
「え」
また嫌な雲行きだ。
逸が渋い顔をしたところへ、似たような表情の篠崎が戻ってくる。
「あ、店長おはようございます」
「逸くん、おはよう……やー参った」
「なんですか今度は……」
「U県で事故あったの知ってる?かなり大きい……道路が冠水と陥没で大変なことになってる」
「えっ、そうなんですか?」
「俺もさっき知ったんだけどね」
揃いも揃って浦島太郎状態である。
「で、まだ天気も荒れてるから渋滞が凄くて。配送車がそれに巻き込まれてるみたい」
「え………」
「いつ届くか目処立たないって……代替品用意できないかって言ってみたんだけど、あんだけ大きいのだと急には……っていうか今日でもかなり急いで用意してもらったやつだしね」
「…………………」
海外の俳優のように、篠崎は腕を組んだ後ゆっくりと顔を擦った。
大袈裟だが気持ちは分かる。
逸も同じように苦り切った気分だった。
「どーーーしよーーかね………俺もう、思考停止してる」
「俺もです………」
《ごちそうさまでした。美味しかったです!》
休憩に入り携帯を立ち上げると、しばらく前に逸から短いメールが入っている。
一度帰っていたらしいーーなんとタイミングが悪いのだろう、と考えて敬吾ははたと真顔に戻った。
会いたかったのだろうか。
「…………………」
思索と感情に沈んでしまいそうになったところへ、視線の途中にぼんやりと置いていた携帯が鳴り始めて仰天する。
ばくばく言っている胸を抑えつつ、敬吾は携帯を耳に当てた。
「も、もしもし?」
『あ、敬吾さん……おはようございます』
「おはよう」
『早速なんですけど、遅くなりそうです』
午前中からそれが確定しているとは。
「また何かあったのか」
『ショーケース搬入できなくなっちゃって。もう完全に手詰まりです………それに合わせて段取りも棚も組んでたんで』
「え、じゃあ…… …………どうすんの?」
『どうなるか……店長と話し合ってるんですけど、完全に行き詰まってて。ちょっと頭冷やしてるとこです』
逸の声が聞いていて痛々しい。
疲れて、乾いて、ささくれた声だ。
どうしようもなく撫でてやりたくてーーー
敬吾の手が、もどかしく空をふらつく。
言葉だけでもとは思うのだが、軽々しいことは言えない。
慰めであれ、傍観者に分かったような口を聞かれたくはないだろう。
頑張っているのは篠崎と逸とスタッフ達でーーその労働の一割も理解できているかどうか怪しいのだ。
もはや無理をするなとさえ言えない。
『えーーっとまあ、そんな感じです』
「ーーうん。岩井」
『はい』
「待ってる」
『?』
「今日は起きて、待っとくから」
『ーーーーー』
「……じゃあな」
通話を切り、敬吾はテーブルに腕を組み顔を埋める。
逸は、呆然と携帯を眺めていた。
ともだちにシェアしよう!