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襲来、そして 15
夫婦のいざこざに出しゃばりたくはなかったが。
これだけ付き合えばもういいだろう、と敬吾は正志の番号を呼び出した。
数回のコールの後、ごく明るい正志の声がする。
「お久しぶりです」
『久しぶり、元気だった?』
「はい。あの、姉貴なんですけど」
『ああ、うん!驚いただろうーー』
サプライズに関しては、この義兄も共犯か。
笑ってはしまうものの、からからと軽快な正志の声はどうも予想とはかけ離れすぎていた。
「ーーあの、今回って一体なにがあったんですか?」
『ん?』
「なんか、何も言わないんですよ。いつもは大体イライラしてるうちに口滑らせるのに」
『イライラ……?えっ、どういうこと?』
「えっ?」
やや緊迫し、そして訝しげになった正志の声に敬吾も困惑する。
お互い嘘はついていないようなのに齟齬があると、妙に不安な気持ちになる。
「……正志さんと喧嘩したんじゃないんですか?」
『えぇっ!?いや、子供生まれたら身動き取れなくなっちゃうから、何日か敬吾くんとこ行って遊んでくるーーってウキウキしながら出掛けたよ?』
「………………えぇっ?」
『ーー喧嘩って言ってた?おかしいなあ……』
「……………………」
数秒の沈黙の後、くぐもったドアの音がする。
それから冷蔵庫の開く音、缶が開いて炭酸の弾ける音。
「早く本物が飲みたい〜〜〜」
のんきにそう言いながらリビングに入ってきた桜に、敬吾は携帯の画面を向けた。
「…………………あっ、」
「どーーーーいうことだ」
「あーーー……」
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