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襲来、そして 17

「……いっちゃんといる時の敬吾が一番、柔らかい感じでいいかなーと、思うんですけど………、お姉ちゃん的には……」 「……敬吾はいっちゃん好きじゃない?」 桜がぽつりぽつりと落とすようにそう言うのを、敬吾は呆然と見つめていた。 ーーなぜそんな声で。 ーーなぜ、このタイミングで。 溢れてしまいそうに、なっている時にーーー 「好きじゃないってことないけど………」 困りきってしまったような敬吾の顔を見つめながら、桜はそれに逸の顔を重ねていた。 自分に構われている時の、困ったような笑顔。 気づくと敬吾を目で追っていて、その瞳が切なそうなこと。 あの年齢には似つかわしくないほど、愛おしげで優しい眼差しで敬吾の横顔を見ていること。 あんな風に敬吾に接する人間は、見たことがなかった。 優しく、頼られやすい弟は皺寄せをくらいやすくてーー包容されることに恵まれなかった。 それを許容できる器があるからだと喜ばしく見る向きもあったが、それでも本来は庇ってやるべき立場の自分ですらも、そうしてこなかった。 ーーその、理不尽を疎んじない強い弟に桜は今、与えられて欲しいと思っていた。 愛情だとか、庇護だとか、そういう優しくて柔らかいもの。 強張りや冷たさのない、もっと積極的な何か。 他の誰かを頼むのはそれこそ身勝手も甚だしいが、自分ではきっと補えない。 敬吾を包むのに、桜の持つそれは少々力不足と自覚していた。 努力や愛情の不足だとかではなくーー恐らくそもそも役者が違うのだ。 子を宿し、ここへ来て、敬吾と過ごし、逸と過ごしてーー自分に足りない、敬吾に必要なものを願い、桜は逸にそれを望んでいた。

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