261 / 280
襲来、そして 18
「……いや、……好きだけどさどっちかっつーと……」
苦り切った顔で額を擦りながら、敬吾がそう言うと桜が少し飛び跳ねた。
ように見えるほど背筋を伸ばした。
僅かに頬を赤らめて、期待するように敬吾を見つめる。
ーーなんなんだよ、もう。
なんでそんなに嬉しそうなんだ、なんでそんなことを言い出すんだ。
いかにも姉です、という顔をして。
桜のくせに!と敬吾は苛立ちに任せて脳内に毒づき、詰まっていた息を吐き出した。
この姉が人の好き嫌いを決める基準は良く分からない。
大概の人間は好きらしいが、たまに嫌う人間は一般的に好感度の塊のように見えたりする。
敬吾の過去の恋人に気軽に「早くお嫁に来てねー」などと軽口叩くことも珍しくなかったが、こんな風に言われたことはなかった。
なぜそんなに、逸にこだわる?
ーーだが、そういう人間が、ここまで姿勢を正して話し始めるともうこれは止まらない。
きちんと心に、脳に刻んでおきたい話なのだ。
…………たぶん。
また敬吾はため息をつく。
ーーもうごまかせないな。
ここまで真剣になっている姉のことも、逸の傍らにいる意味も。
「……つうか、付き合ってんだよ。結構前から」
「ぅええぇぇーーーー!!!」
「うるせえーーー!!」
ともだちにシェアしよう!