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襲来、そして 30
「ん……………?」
ーー体が重い。
夢でも見ているのだろうか、この薄い熱気と感触は見知ったものではあるのだが、寝起きには有り得ないものでもある。
やはり夢だ。
こんなこと、あるわけがない……
そう思い、逸は僅かに開いていただけの瞼を擦ってきちんと目を開いた。
そうして自分に跨っている影を見上げ、ふわふわと笑う。
「………敬吾さん、何してるの?………」
逸が優しく問いかけると影はびくりと頭を上げた。
「や………っ!」
「気持ちい?」
「あ……っごめ、………っ!」
「……?」
謝らなくてもいいのに。
慰めるように内腿を撫でてやりながら、逸は怪訝そうに目を細める。
自分の作り出した夢なのに、敬吾を落ち込ませてしまうとは。
「んーー………?」
ごしごしと両手で顔を擦り、更に訝しそうに眉根を寄せながら逸は体を起こす。
僅かずつにでも明るくなってくる室内で、影も鳥目なりに鮮明に見えるようになってきた。
逃げようとーーつまりは繋がっているそこを抜こうとーーしている敬吾を捕まえて、よりよく見ようと顔を寄せる。
真っ赤な顔を今にも泣き出しそうに歪めて、恥ずかしそうに申し訳なさそうに俯いていた。
「……ん?ええ………?ーー現実?………」
「……………!」
敬吾がまたびくりと肩を縮める。
「………えっうそ、嘘でしょ敬吾さん何してーー」
「……………っ!!」
「あああごめんなさいっ、泣かないで泣かないで俺怒ってるわけじゃないですからむしろ嬉しいですから!!!」
沈み込んでしまいそうなほど深く俯いた敬吾に、逸はあわあわと弁明しながらその肩を抱き寄せた。
怒っていないのも嬉しいのも本当だが、心底驚いてはいる。
本当に、何故、この人がこんなことを?
寝ている人間のそれを、ーー勃っていたのかもしれないがーーわざわざ勃起させて跨ったなんて。
「だって……………っおまえが昨日、はんぱなとこでやめるから…………っ」
「ーーーーーーへ?」
「お、……おれ起きてもからだ変で、…………っ」
手の甲で半ば隠されてはいるがぐすぐすと泣き始めてしまった敬吾が綺麗で、逸は一瞬見惚れた後努力して我に返る。
からかうべきではないと、分かってはいるのだがーー
「……それで、ハメちゃったの?」
「…………!!!」
やはり子供のように、可哀想なほど手放しに歪められた表情を堪能してからまた逸は敬吾を抱き締めてやる。
「ごめ………っでも、ぅ……」
「あぁ……ごめんなさい敬吾さん、可愛い」
泣き出しそうな目元に口づけ、背徳じみた快感に陶酔するように揺らしてやると敬吾はそれでも悲痛に喘ぎ、中では逸のそれが大きくなっていった。
「んんっ、なんで……っ」
「完勃ちじゃなかったんでしょう、……待ち切れなかった?」
また不用意なことを言ってしまい逸は後悔するが、敬吾には聞こえていなかったらしい。
渇望していた熱と動きを与えられて、恥じ入るのも傷つくのも忘れ文字通り頭を下げて没頭してしまっている。
確かに昨夜をそのまま引き継いでいるように敬吾は熱に溶かされていた。
ーーだが。
「昨日は敬吾さん、かなり深くイッたでしょう?」
「………へ、……?」
「満足してもらえたと思ってたんだけどなあー」
わざと拗ねたような口調で逸が言うと、手放したい理性を引き寄せられて混乱したように敬吾が頭を振る。
確かに、快感は普段の比ではなかったが。
「……っわかんない、っ……なんも出なかった、し……っ」
「えっ、出なかった……?」
「ずっと、っふわふわして、」
ーーそうだったろうか。
そんなこと考えもしなかったから、気付かなかったのか。
「あれかなあ、ドライとか言う………」
「ん…………、」
負担を掛けてしまったかもと逸は半ば真剣に考察するが、敬吾にはもう聞こえていない。
潤んで伏せられた瞳とゆるく開かれた唇を間近に眺め、逸は生唾を飲み下す。
「……っまあ、どーーでもいいっすねそんなことは!」
「あ……っ!」
言うなり逸は、乱暴に敬吾を押し倒した。
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