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第5話 鈴
今日も何事もなく1日が終わる
クリスタルの首に鈴が付いてから数日
グレーもクリスタルもお互いが存在を意識しつつも
お互いが言葉を交わすことはなかった
クリスタルは誰が鈴を付けたのか気になって仕方がなく
いつものように姿を消したまま他のレンジャー達を見ていた
「理由はどうあれ礼ぐらいは言わなきゃな」
少し照れながら
人差し指で首元の鈴を鳴らしてみる
リン・・・
透明な涼やかな音色
「ここにいたのか」
偶然にも目の前にグレーが立っていた
しまったと思った
見えてない筈なのに鈴の音で気付いたようだ
まずいと思いゆっくりとその場から離れようとしたが肩を掴まれ壁に押し付けられた
グレーも伸ばした手の先でクリスタルの肩を掴むとは思ってなかったようだ
途端に光学迷彩機能がエラーを起こし姿を晒す状態となってしまう
意外にもクリスタルの姿を見ることになって
グレーは少し驚いた表情をしたが目線を首に向けてニヤリとした
「なんだ似合ってるじゃないか」
やはりコレはグレーが付けてくれたのか?
クリスタルは嬉しさと恥ずかしさで少し目線を下げた
「グレーあのコレ・・・」
しかしグレーはお礼を言いかけたクリスタルの言葉を遮った
「はっ、本当に猫みたいだな
これでご主人様は誰かハッキリするだろ 」
「な・・・なんだよその言い方は」
礼を言うはずだったが猫だのご主人様だのの言葉を聞き
掴まれたままの肩を払いグレーに背を向け拳を握り込み上げる不快な気持ちを抑えていた
そんなクリスタルの気持ちを知ってか知らずか耳元でそっと囁いた
「今夜部屋に行く」
グレーの甘い声に心臓が跳ねた気がした気持ちが恥ずかしさに侵食され振り返りもせず自室へと走って逃げた
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
クリスタルの頭の中はグレーの事でいっぱいだった
「AI、光学迷彩機能をオンにしてくれ」
『光学迷彩機能通常使用・・・エラーを確認しました』
「マジかー」
クリスタルは頭を抱え次にとった行動は自己分析という理由の自分への負荷である
エラーを起こさせ自動停止させる作戦だ
ベットの上で座り込みノートパソコンを2台起動させた
「AI、モニターにエラー箇所を表示出来るか?」
『表示しました』
モニターにはグレーに掴まれた肩に予想以上の負荷があったこととクリスタル自身の感情の起伏が表示された
自分の感情を数字化したとはいえ見たことも無い程の数字か並ぶ
それを見てますます焦るクリスタル
平常心平常心と心の中で唱えつつも思考回路はショート寸前まで来ていた
グレーが来る
俺はどうしたらいい、どうすればいい・・・
『警告しますこれ以上の稼働は無理と判断
強制スリープモードへ移行します再起動は3時間後』
AIの言葉を聞いてホッとした
そして消えゆく意識の中でお礼が言えなかった事を少し後悔していた
数時間後
クリスタルの部屋にグレーはいた
ベットの上で背を向け座ったたままのクリスタルを後ろからそっと抱きしめた
「・・・クリスタル」
しかしクリスタルの機能は既に停止していた
仕方ないなと少し呆れ顔のグレーだったが
出しっぱなしのノートパソコンを片付けてクリスタルを寝かせそっと部屋を出ようとしたが踵を返し再びクリスタルの側へ来た
優しく頬に触れ
「一瞬だが君が見れて声が聞けて良かった」
そして唇を重ねただけで静かに部屋を出ていった
遠ざかっていく足音を聞いて何故か涙が出るクリスタル
ほんの数分前には再起動していグレーの存在を感じていた触れた頬も唇の感触も
しかしクリスタルはどうしていいのか分からなかった
深夜に部屋に来るってことはつまりそういう事なんだろう
睦言と蜜事と・・・
グレーは俺のことが好きなのか?
それともからかってるだけ?
翌日いつもと違うグレーの姿に他のレンジャー達は怯えるのだった
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