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第3話
甘露を味わうだけでなく、粘膜と粘膜を擦りあわせ、歯列を撫ぜ、上顎をくすぐる舌の動きにもびくびくと感じ入ってしまう。口の中を探り合うのがこんなにも気持ちいいなんて、知らなかった。
「うまいか。俺の唾液は」
ハァハァとみっともないくらい呼吸を荒げる俺を、一旦口づけを解いた薫が至近距離で覗き込む。俺は、互いを繋ぐ唾液の糸がふつりと切れるのを視線で惜しみ、唇についたそれを舐めとった。
「……おまえがそんな顔をするなんてな」
「…ぁ…かぉる…」
「引きずられて……滅茶苦茶に犯してしまいそうだ。抑制剤を飲んでなかったら危なかったな」
親友が発した「犯す」という言葉に、わずかに残っていた理性が刺激され、快楽に流されかけていた意識を揺さぶられる。
「待っ…てくれ、待て…」
少しだけ正気に返った俺は、遅まきながら制止の声をあげた。
……ちゃんと考えなくては。
なにがどうしてこんなことになっているのか。
なぜ、自分が薫に押し倒され、――犯されそうになっているのか。
しかし、考えても混乱は収まらない。
状況整理が覚束ない。
何から聞けばいいのか、確かめなければならないことはたくさんあるはずなのに、――頭がちっとも回らなくて……もどかしい。通常の半分どころか十分の一もきっと正常に働いていないだろう。思考力が著しく低下していた。
(だが、これだけは――……)
聞かなければならない。
それを聞くのは怖くはあったが、この状況において避けては通れない道だった。
ゆっくり口を開き、真実を問う。
「おまえ…俺が…」
Ωだと…
「知っていたよ」
「――」
答えは最後まで口にする前に、あっけないほど簡単に得られた。
……俺がもっとも望まぬ真実を、薫はなんのてらいもなくあっさりと暴露した。
「俺はおまえがΩだと知っていた」
――知って…いた。
はっきりと言葉にされたそれに、俺はある程度答えを予想していたにも関わらず衝撃を受けた。
――偽っていたはずが、偽られていたのは、……自分の方だった。
「いつ…、いつから…」
「…………高等部に入る直前かな」
「……」
そんなにも前から――。
ショックのあまり、冷静さがかなり戻ってくる。
俺の気持ちが硬化したのを感じ取った薫の表情もどこか甘さを漂わせたものから、真剣なものへと変わった。
「碧」
「…………離せ、帰る」
「帰すわけないだろう」
今度こそ本気で押しのけようと伸ばした腕を取られ、薫にしては荒々しい動作で俺の両手首に素早く何かを填(は)める。
「な…っ!?」
動きが拘束され、驚いて頭上を見ると、――ベッドから伸びる鎖とその先についている手枷が俺の手首には繋がっていて、あまりの光景に目を剥いた。
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