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第4話

「なんだよ…これ…」  うわずった声が自分の口から漏れるのを、信じがたい気持ちで聞く。 「帰さねぇよ、碧」 「薫…っ、どういうつもりだ! こんな真似…っ」  清潔なシーツの上を黒い鎖がのたうった。  こんな暴虐は許せない。  こちらの意志を軽んじる真似を許せるわけがない。  ずっと、ずっと対等だったのだ。  なのに……――俺がΩだからといって、こんな行為を許せるはず、ない。 「――このベッドな、おまえのために買った特注品なんだぜ」  そんなものを、と言われてありがたがって喜ぶとでも思っているのだろうか。……もし本気でそう思っているなら心外だ。とても馬鹿にしている。  薫に群がる他の人間と一緒くたにされた気がして、神経を逆なでられた。 「知ってるか? セックスするときにベッドにかかる負荷」 「知るか!」 「1トン」 「――」  こんな状況なのに俺は普通に驚いた。…1トンか。 「すげぇだろ? まぁ実際のところはヤリ方次第だろうが、俺もおまえも男だし、ガタイもいいから頑丈なもんにしねぇと、……あっという間にぶっ壊れそうだろ? ついでだから、いろいろ(こだわ)ってもみた。スプリングも厳選したし、いろいろオプションもつけたんだ。おまえに填めた拘束具なんかもその一つ。……おまえ、俺よりも武芸が達者だからさ。抵抗されたら負けはなくとも梃子摺(てこず)るだろうし、必須だよな。あ、そこらに売ってる玩具(おもちゃ)じゃねぇから強度もメーカーの保証付き。(ゾウ)が引っ張っても壊れないだとよ」  ずらずらとベッドの説明を並べ立てる親友に俺は言葉を失う。  ――言っていることの意味はわかっても、彼の意図するところがまったく見えなかった。  なぜ今ベッドの話なんだ。  もっと話すべき、大切なことが、あるはずなのに。 「あんまり俺があっちもこっちも強度強度ってうるさく注文をつけたもんだから、どんだけ力持ちなΩだよ、って呆れた顔された」  こくりと生唾を飲む。  なぜ、朗らかに話す薫に対し、こんなにも追いつめられた気持ちになるのだろう。 「象だって逃げ出せない檻が、俺には必要なんだよ。なぁ碧」  心底愉しそうに笑う見慣れた薫の顔が恐ろしかった。 「わかれよ」  学園の廊下でされたときと同じ動きで首筋に手を当てられた。  それが何を示唆しているのか。  俺は察した。  ――アレは、園原にではなく俺に対する布石であり、警告であり、……最後通牒だったのだとようやく悟る。 「……いつまでも誤魔化し切れるもんじゃねぇだろ、なぁ碧」  もう、限界なんだよ。  おまえも、――俺も。  熱を孕み、だが、どこか切なげにも見える眼差しで、固唾を飲んで見返す俺へ諭すように囁いた後、その瞳をがらりと獰猛なものへと変貌させ、薫は喰らいついてきた。

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