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第6話
「大人しく素直に感じてろ」
さらに薫は、「縛られていた方が、おまえも言い訳がたつだろ」とズレた思いやりを投げかけてきた。
……感じるからイヤなのだと、言いたいが言えないジレンマに陥った。
いっそ本格的なヒートならば、理性もなにもかもかなぐり捨てて溺れてしまえるのだろうが、抑制剤が効いているため、思考が飛ぶほどじゃない。先ほどは、それを不幸中の幸いと思ったが、こうなってくるとどっちがいいのやらわからなくなってくる。
そんな俺の戸惑いにはまったく頓着しないαの男は、親友だったΩの男の性感帯探しに、現在、熱中している。
「なぁ、乳首をこうやって触るのと、ちょっと抓るのとどっちがイイ?」
「わき腹と、臍と、どっちが感じる?」
「鎖骨を舐めるのと、首筋と、どっちが気持ちいい?」
「なぁ…耳殻と耳の中、どっちが腰にクる?」
触れる部位ごとに確かめられて、俺はとうとうキレた。
「いちいち訊くな!」
「……だって、おまえ処女みたいなもんだろ? これでも気を使ってんだよ、俺も」
気の使い方が激しく間違っている。
そんな気遣いはいらん。
(というか、処女って……)
――その通りなのだが、言葉にされると地味にへこむのはなぜだろう。
そもそもΩの未通の男は処女なのかどうなのか。女ではないのに処女という表現はおかしいと思うのだが…。
「あ! おまえ、童貞でもあったな! 童貞処女か! 男のロマンだな」
大きな声で、嬉々として人の性経験を暴露するな。非常に不愉快である。こっちはそんなもんにロマンを感じる性癖など持ち合わせていない。
……俺は先刻したばかりの選択をさっそく後悔しそうになった。
Ωの男だって、抱かれるオンリーではなく男側として誰かと性交渉を持つことは可能だ。
ただ、俺がその気になれなかっただけだ。
α以外との性交渉でも、ヒートを誘発させる危険性があったためでもある。
とにかく、――高校卒業まではたとえそれが偽りの姿でも、αでいたかったのだ。そのためには細心の注意を払い、少しでも危ういことからは遠ざかるべきだった。抑制剤のおかげか、性欲を感じることも滅多になかったため、わざわざ危険を冒してまで童貞を捨てようなどと思えなかっただけだ。
――馬鹿にされるいわれはない。
不貞腐れた俺の顔を見て、薫は唇をにやりと上げると、ちゅっと鼻先に軽い口づけを落とす。
「拗 ねるなよ」
「……拗ねてなどいない」
「おまえ、拗ねるとへの字口になるからわかりやすいんだよ」
俺をわかりやすいと云うのは、薫くらいのものだ。
Ωであることを隠しているため、俺はなるべく自分の感情を表に出さないように過ごしてきた。
「可愛げがなく愛想もない」のは元々の気質だったが、中二の夏以降、ますますそれに拍車がかかったように思う。大抵の人間が、俺に対しては身構えるようになってしまった。……べつにいつもいつも怒っているわけでも不機嫌なわけでもないのだが、どうにもそう見られがちだった。
そして、他人には「わかりにくい」ともよく評された。
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