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第7話

 たまに廊下で薫と談笑していたりすると、通りすがりの生徒にぎょっとした顔をされるのだが、あれは本当にやめて欲しい。俺は笑っちゃいけないのか、とやさぐれた気持ちになるから。……それに気づいた薫がにやにやして面白がるのも鬱陶しい。 「って言ってもなぁ、もう遅いんだよなぁ。……おまえ童貞なのに、女も男も抱かせてやれなくてすまんな」  薫の顔には案の定、廊下でそんな光景に出くわしたときのようなムカつく笑みが浮かんでいて、ちっとも「すまない」などというツラじゃない。笑いながら言われてもまったく謝られた気がしない。 「どうしてもって言うなら、俺のケツで童貞捨てさせてやるから許せよ、碧」  ――どこの世界にαのケツで童貞を捨てるΩがいるのだ。  言っていることが滅茶苦茶だ。  でも、そんな非常識なことを「Ω」のために平然と言ってのける薫だからこそ、きっと俺は惹かれたのだろう。自分にはない破天荒さが、いつだってこの目に眩しく映っていた。 「もう俺以外の誰もおまえに触れさせる気はないから」  独占欲を滲ませて、薫は本格的な愛撫を再開する。  話している間も、薫の手はもちろん勤勉に働き、俺の躰にゆるゆると快感を断続的にもたらしていたが、ウエストに伸びた手がさらにその先を求めて蠢き始める。――いよいよなのだと俺は覚悟を決めた。  ちなみに、太っ腹にもケツを貸してくれるらしいαな親友殿は、精通して数日後にさっさと童貞を捨てた剛の者だ。  精通も早かったが、童貞を捨てるのも早かった。ワンツークイックでナンパした行きずりの相手に惜しげもなく捨てて来た。相手はβの女性だったという話だ。  初セックスの翌日、堂々と報告されて俺は唖然とした。それこそ大きな声では言えないが、そのとき俺たちはまだランドセルを背負っている年齢だった。ちなみに数日前の精通もきちんと報告されていた。どっちもそんな報告はいらないと思ったのがその時の俺の正直な気持ちだったが、口には出さなかった。代わりに、得意満面で誇らしげに報告してきた親友に言ったのは、 「早すぎるだろ……」  という、やっぱり正直すぎる素直なそのまんまの感想だった。  しかし、そんな俺に薫はけろりとした顔で悪びれもなく言い放ったのである。 「早くなんかないぞ。童貞にしては持ちがいいと褒められたしな。少なくとも三こすり半なんて恥をかくことはなかった」  ――そうじゃない。俺が言いたいのはそっちじゃない。  まったく…童貞らしくない童貞もいたものだ。  そんな薫の恋愛遍歴といえば推して知るべし……であろう。  とにかく中等部時代は酷いものだった。  来るもの拒まず、去る者追わず。  俺がどんなに忠告しても「何事も経験」と言い張って、男も女もαもβも年齢にすら(こだわ)らずに、ある意味平等に分け隔てない博愛精神でもって浮名を流した。何事も、ものは言いようである。

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