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第9話

「いぅ…ッ」 「おまえがなんと言おうと、どんなに抵抗しようと、……俺はやめない」 「ち…がぅ」 「何が?」 「おまえ、Ωが苦手だった、だろ?」  だからこそ、傍に置いた園原を特別な存在なのだと思ったのだ。園原が番なのだと勘違いした。番だから――苦手なΩでも大丈夫なのだと。それほどに惹かれているのだと、そう…思った。 「本当に、いいのか?」  一時の感情に流されているだけではないのか?  もし本当に番になってしまったら、あとで我にかえって後悔しても遅いのだ。  薫はピタリと動きを止め、軽く両眼を見張ったあと、 「……………今から犯されそうになっているっていうのに、なんで人のことを気にしてるんだ、おまえは」  やるせなさそうに藍色の目を伏せて、しかし、表情とは裏腹な呆れ混じりの溜め息を零した。  そのどこかちぐはぐな表情に、俺はなぜか胸を突かれた気になる。  薫は、戸惑う俺の額に自分の額をくっつけてきた。  顔が近すぎて焦点が合わない。 「いいに決まってる。……αだとかΩだとか難しく考えるな。俺はΩが欲しいわけじゃない。Ωのおまえが欲しいんだ」  薫がどんな顔をしてそれを口にしたのか、だから俺にはわからなかった。  愛の囁きにしてはいささか色気の足りないそれに、俺は小さく笑みを零す。  ……狙った相手を落とそうとするとき、薫は歯が浮くような美辞麗句を平気な顔で並べ立てる。大概の人間がそれであっさり落ちるのだから、手管としては有用なはずだ。実績もある。ここで使わない手はないと思うのだが、薫はそれをしなかった。 「……らしくないな」 「おまえなぁ…俺の一世一代の告白を……」 「らしくないけど、ぐっときた」 「……」 「俺も…おまえなら、いい。いや、違うな。――おまえがいい」  瞬間、薫の唇が俺のそれを塞いだ。  あっという間に、快楽の嵐に飲み込まれる。  薫の舌が紡ぎ出す甘露の調べに、躰も心も(たかぶ)り、枷がなくなった解放感に浚われ俺は触れられもせずにキスだけで背を(たわ)ませ頂点まで昇りつめた。  薫もタガが外れたように挑んでくる。  舌を絡め、互いの唾液を飢えた獣みたいに啜り、荒い息をつきながら後孔に咥えこませた指を器用に動かして中をぐちゃぐちゃとかき回す。  ローションなんか不要だった。  奥から奥から――感じれば感じるほど愛液が滴ってきた。 (これが…Ωの躰)  相手が薫でなかったら、自分の躰に絶望したかもしれない。  でも、薫だったから。  薫になら、すべて明け渡してもいいと思えた。 「かおる…」 「…あおい。――入れるよ」  小さく頷いて了承すると、ぐっと押し付けられた熱量がナカに入ってきた。 「ァ…ア…っ」 「碧」 「…ふ…ぅ…」 「あおい」  名前を呼びながら奥へと進む薫の声にも、どこか苦しげなものが混じっている。 「碧」 「か…おる」  お互い好きという言葉は一度も口にしなかった。  それでも、そこには大切な、何にも代えがたい気持ちの繋がりが確かに存在していた。  俺は薫でなければならなかったし、――きっと薫も俺でなければならなかった。  唯一無二というのが「(つがい)」なら。  確かに俺たちはなのだろう。  俺と薫の繋がりは、口では説明できない類のだった。

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