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第14話

 守りは万全と豪語することはさすがに無理だが、それでも俺になんの情報ももたらされずに事が起こったことは不自然だった。風紀委員によって学園に張り巡らさたガードは、当日も正常に機能していたはずである。しかし、その間隙をつくように事は起こった。事前情報もなにもなく、それどころかすべてが終わっても通報すらなかった…。しかも事件が発覚したのはそのさらに翌日である。そんなケースはこれまでに一度もない。異例中の異例といってもいい。園原の事件は、本当に寝耳に水だったのだ。  風紀を出し抜き、俺の裏をかけるのは、――この学園でただ一人しかいない。  ようやく手枷が外され、俺は自由になった。  ……だが、手枷は外れても、もっと深いところで薫に繋がっているのがなんとなくわかった。  薫が俺の手首に詫びを入れるように口づける。  性的なものは感じさせない接触だったが、まだ快感の余韻が残る躰にはさざ波に似た刺激となった。  それを誤魔化すために口を開く。 「――おまえ、園原は……」  こいつなら、誰かをそそのかして扇動し、Ωである園原を襲わせることも可能だろう。 「ベッドの上で他の男の名前を出すのはマナー違反だぜ?」  俺の手首から顔をあげた薫の目を見た瞬間、疑惑が確信に変わった。  ――怖い男だ。  俺の番となった男は、非情だった。 「夏休みまで煩わされるのは、勘弁してほしいからな」  悪びれもせずに言ってのける。 「ご退場願うにはいいタイミングだった」  襲ったのは他のαでも、襲わせたのは俺の目の前にいる男だ。  薫には、邪魔になった…あるいは用済みとなった人間を社会的に抹消することも、場合によっては地獄へ叩き落すことさえも、もし本気でそれが必要だと判断したならば、なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく実行しかねない――そんな恐ろしさがある。 「夏休みが明けた頃には、もう誰も事件や園原のことなんか忘れているだろうよ」  さすがにやりすぎだと俺は顔を顰めた。 「おまえ…そういう――」 「煩わしかっただろ?」  汗に濡れて額に張り付いた俺の前髪を掻き揚げ、上から瞳を覗き込んでくる。 「いちいちおまえに対抗して」 「……」 「まぁ、動揺するおまえの姿が愉しめてそれはそれでよかったんだけど、――オイタが過ぎるのはいただけない」  ふっと片頬をあげ、酷薄に嗤う。  その顔を見て、園原が薫に対し致命的な失態をしたのだと察した。  ――一体、なにをやらかしたんだ、園原…。  気になったが、それ以上追及すればなんだかマズいことになりそうな予感がして、俺は風紀委員長としてはあるまじき判断を下した。……つまり、園原のことに関しては何も聞かなかったことにしたのである。ベッドの上で他の男の名前を出すのはタブーだと俺は学んだ。  俺の首筋を撫ぜながら、薫がピロートークにしてはいささか不穏だった話題から離れ、別の話を振ってくる。 「これで俺もおまえも抑制剤から解放されるな」  未だ躰に力が戻らない俺は、ころりと横に寝ころんだ薫を目で追った。 「……?」 「おまえが飲んでるんだ。当然、俺も飲むだろう?」 「…?? なぜだ?」

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