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偽りのα 第1話

三人称、薫視点。 生徒会長の裏の顔。 ************************************************ 「お話があるんです」  人払いをした生徒会室で、そう深刻な表情で切り出してきたのは、園原(そのはら)涼太(りょうた)、――ゴールデンウィーク明けに学園にやってきたΩ性の編入生である。  園原は、本人の資質かあるいはその希少なΩ性であるためか、わずかな期間で学園に通う名だたるαの生徒を魅了してしまった。  そして、現在、風紀委員長の推薦で生徒会庶務の役職に就き、主に生徒会長である薫の補佐を務めている。  薫は、来客用のソファーに園原を促し座らせると、その隣に腰かけた。  園原の白い頬がほんのり赤く染まるのを眺めながら、話を聞く態勢に入る。 「……それで、こんな風にあらたまって、どんな話があるのかな?」 「風紀委員長の…、雛森(ひなもり)碧(あおい)先輩の、ことです」  言いにくそうに、どことなく躊躇いを声に乗せつつも、園原ははっきりと碧の名を口にした。……だから、胸に湧くどす黒い嫌悪感を薫は押し殺さねばならなかった。あまりに狭量な自分の心が滑稽でもある。 「碧?」  それでも我慢できず、……まるで対抗するようにその名前を口にしてしまう。 「……はい」  園原はもったいぶって間を置き、十分に期待感を持たせてから、……タイミングを計ってそれを言った。 「彼は、β…だと思います」 「――」 「αのふりをして、みんなを、……薫先輩を騙しているんです」 「へぇ……碧がβ、ね。それは初耳だな」 「僕は、平気な顔で、あなたを…全校生徒を(あざむ)く風紀委員長を許せません」  園原は熱をこめて言い募った。 「許してはいけないと、思うんです」  正義は、自分のものであると、自己陶酔がちらちらと口ぶりの端々からうかがえた。そして、その中には巧妙に隠された媚びも含まれていた。  薫は真摯な顔を作り、ほんの少しだけ声に翳りを配分して、沈んだ声を出す。 「それが本当なら、由々しきことだね」 「はい!」  我が意を得たりと、明るく瞳を輝かせわざとらしい純粋さを演出する園原に、薫は優しく微笑んだ。……どうしてこんな(まが)い物の純粋さに他のαが騙されるのか、つくづく理解できないと思う。真実純粋なΩなど、薫は一人しか知らない。 「それで、俺はどうしたらいいと思うのかな? 涼太」  わざと普段口にしている名字ではなく、固有名詞で呼ぶ。  園原はとたんに嬉しそうに顔を輝かせ、うっとりととろけた目つきで薫を見た。 「……あなたは何も。僕が、僕がすべて…。僕に任せてください。あなたのために彼の嘘を暴きます、きっと」

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