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偽りのα 第2話

「そう…? うれしいね、俺の為なんて。でも、あまり無理をしてほしくないな」 「無理だなんて…っ、僕は薫先輩の役に立ちたいだけで…!」 「頼もしいな。……何か俺に手伝えることはあるかな? 危険な真似はあまりして欲しくない。どうやって彼の嘘を暴くつもりだい?」  園原の行動なら、手の者に調べさせればわかるだろうが、本人の口から聞けるのならその方が手っ取り早いので、欲しい情報を得るために話に乗って誘導する。  ダメ押しに顔を近づけ、意識して瞳の力を濃くし、視線で園原を絡めとった。自分の視線が交渉ごとを有利に導く「武器」として使えることを知ったのは、もうずいぶん昔のことだ。 「簡単です。僕の知り合いのαに頼んで、……襲ってもらいます」 「襲う? でも、あいつは強いよ? 部活は弓道部だけど、体術の達人が兄に居るからね。相当鍛えられているみたいだ」  ……ちなみに、薫自身もその達人にはかなり絞られている口である。中学生時代ならいざ知らず、高校三年にして碧と二人がかりでも未だに敵わないのだからもはや化け物並みに恐ろしい。 「それでも集団で掛かれば、……きっと」 「――集団」  完全に地雷を踏み抜かれ、薫は一瞬自制心を失いかけた。手のひらに爪をたてて、荒れ狂う腹の内をなんとかギリギリで収める。ぬるりと手のひらから血が流れでる感触がした。 「…? なにか…匂いが…」  敏感に血の匂いに反応する園原に舌打ちしたい気分になるが、表面には出さずに話を進める。……できれば、この愚かなΩから一刻も早く離れたかった。でなければ、自分を抑えきれる自信がない。さすがに生徒会長が学園内で暴行騒ぎを起こすわけにはいかない。それこそ碧に大目玉を食らうだろう。そういう時、親友だろうが身内だろうが、あいつは容赦がない。 「それで……集…、…それが成功したとして、あいつがβだとどうして証明されるのかな?」 「もし、α同士なら、互いのフェロモンが反発し合い、なかなか欲情しないと聞きます。αが一番欲情するのは、Ω、その次にβです。反応を見て、動画にでも撮れば充分に証明になるかと思います」  ――園原は思った以上の下種(ゲス)だった。 (よくもまぁ…無邪気な顔してそんな計画を語れるものだな)  これを聞いたのが碧なら、相当な角度で口をひん曲げそうだ。 「なるほど。しかし、何事も例外はあるよ?」  これ以上は耳が腐りそうだったので、話を別の方向へとずらす。 「事実、俺の知り合いのαは、同じαを欲情させたことで、Ωに間違えられたことがある。正真正銘のαなのにね」

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