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偽りのα 第3話

 なぜそんな話をしてしまったのか……自分にもわからなかった。  もしかしたら、園原を思いとどまらせたかったのかもしれない。  ――どう転んでも、碧は悲しむだろう。  園原などどうでもいいが、あいつを哀しませることはなるべくなら避けて通りたかった。  しかし、世の中はそんなに甘くはできていない。  だから、学園の生徒を守りたいと日夜ガードに心を砕いている風紀委員長に、牙をむく輩も少なからず存在するのである。  ――悲しいかな、それはなにも園原に限ったことではなかった。  もちろんここまで胸糞の悪い話は初めてだったが、大なり小なり風紀のトップに逆恨みを抱く生徒は今までにもいたのである。 「あなたのためなら僕はなんだってできます」  すでに園原に対し興味を失っていた薫に気付くことなく、Ωはαに陶然と告げる。 「だって、あなたは僕の……」  ――運命の番だから。 「……」  薫は否定も肯定もせずに、黙って微笑みを浮かべた。  ……蜂蜜とチョコをシェイクして周囲にぶちまけたような甘ったるく濃厚で――とても鼻につく匂いを残して、園原は退室した。物足りなさそうな顔をしていたが、差し迫った極秘書類があるからと部屋を追い出した。もう一分一秒も同じ部屋の空気を吸うことに我慢がならなかった。  薫は園原が退出した直後、まず窓に向かった。  ガラス窓を大きく開け、不快な匂いを部屋から追い出し、自分も新鮮な空気を肺に取り込む。  ……煙草の一本でも吸いたい気分だったが、さすがに生徒会室で喫煙するのは(はばか)られた。  実際のところ、この手の誘惑には慣れっこで、碧のことでさえなければこうまで疲労感を覚えることはない。  中等部時代に散々遊びつくしたおかげで、恋のさや当て、駆け引きなんかにもかなり達者になった。  碧には到底話せないが、それなりのシュラバもくぐってきた。 (話せるわけ…ないよなぁ)  薫は生徒会室の窓から、青々とした葉が生い茂った桜を見下ろす。  自分の相棒に、汚い世界は似合わない。  あいつは真っ直ぐに正しい道を歩けばいい。  自分はその横で、何食わぬ顔をして必要ならばどんな悪事にでもこの身を染めよう。  ――どうせこの身はとっくの昔に(けが)れている。 (でも、きっと、)  自分が、(ほんとう)の闇に引きずられそうになったときは、あいつが体を張って止めてくれるはずだから。 (碧は俺の保険であり枷でもある)

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