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偽りのα 第6話

 三年前の春。  高等部への入学を間近に控えたある日、薫は岬に呼び出され、近所の公園へ向かった。  そしてそこで、碧の秘密を明かされる。  まさに青天の霹靂だった。  薫は我が耳を疑い、衝撃的な事柄を告げた岬に聞き返す。 「……なんだって…? 今、なんて言った?」 「だからぁ、あいつは――碧は、αじゃなくてΩなんだよ」 「おめが……」  一瞬、脳内でオメガとΩが繋がらないほどにその事実は薫にショックを与えた。  にわかには信じられず、揶揄われているのかとも思えたが……、 「本当、なんだな…」  いつも人を食ったような態度の岬が苦々しげな顔をするのを目の前にすれば、……信じるしかなかった。 「なんで俺に…教えたんだ?」 「おまえはあいつに邪な気持ちなんかもってないだろ?」 「あたりまえだ!」  つい反射で口に出してしまった瞬間、頭で考えるよりも先にしまったと思った。 「だろ?」  我が意を得たり、とにんまり笑う碧の兄が心底憎たらしい。  ――言質(げんち)を取られた。  岬という男は狡猾だ。  ……これで自分は早々碧には手を出せなくなった。 「まぁ、俺もこれで一応あいつの兄という自覚はあるわけよ。可愛げなんてまったくない弟だけど、どこの馬の骨ともわからんアホなαにくれてやる気はないわけ」  ――世間一般的に見て「どこの馬の骨ともわからんα」なんてもんは、あまり転がってはいないと思うが、つまり岬のお眼鏡に敵うような人間でなければたとえαでも手出しは許さんということだろう。 「あんなんでも我が家の大事な大事な末っ子なんでね、あんなんでも」  二度も「あんなの」と云った割には、笑みの形を作った目がしっかりとこちらを牽制しているのだから侮れない。  ……まったくもって捻くれたブラコンである。 「どんな相手でも簡単に遅れをとるようなヤツじゃないけど、――Ωってのは、生まれ持った体質が厄介だからな」  どうやら本気で案じているらしい、と薫も姿勢を正し真剣な顔をする。いろんな意味で世話になった人でもある。 「フォローしてやってくれると、助かる。おまえなら本人にも気づかれずにそのくらいできるだろ?」 「……それ、暗に『気づかれずに上手いことやれ』とプレッシャーかけてますよね」  驚きすぎて敬語で話すのも忘れていた。  こんな人でも年上で、あらゆる武道に精通した体術の達人である。化け物並みに強いのは、この雛森家の次男、岬のことだった。 「俺はおまえのそういう敏いトコを買ってるんだよ」  にんまり性悪なネコのように笑い、 「じゃ、よろしくなぁ」  と、岬は巨大爆弾を落とし、言いたいことだけ言って、さっさと去った。

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