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1.君の秘密(5)

「あ…、松前、く…ん…」  霧島、と呼ばれた少年は蓮亀を見て僅かに後退った様に見えた。 「よォ、こんな奴とじゃなく、俺と遊ぼうぜ」  町谷は蓮亀を親指で指し示しながら、首を振って少年に笑いかける。  その目は、笑っていない。 「…え…いや、ぼ、僕は…」  少年は狼狽えたまま、近づく町谷に合わせて後退る。  町谷は歯を見せ笑った。 「そんなに睨むなよ。なあに、少しばかり力比べしようってだけだろ?」 「え…?」 「…アルド」  町谷がその名を呼び、宙に手をかざした瞬間、蓮亀は走り出していた。 「間に合わない、霧島くん、避けて!」 「え…!」  少年の目には、まだ二人共遠く離れている様に見えた。  何を、避けなければならないのか。  分からなかったが、とっさに、身を屈め目を細めた。 「?」  何も、起こらない。  薄暗い路地は変わらず、隙間風が吹き抜けているだけだ。 「な、なんだ…?」  遠く離れたところで、舌打つ音が聞こえた。  見れば、先程空から降りてきた男が、苦虫を潰したような顔をして、腕を組んでこちらを見ている。  近付いてくる様子は無い。  男と同様、空から降りてきた同級生は、途中で立ち止まっていた。 「え、あ、松前くん…どうし…」  奇妙な音が、足元から響くのを少年は耳にした。 「え…?」  見れば、少し離れた地面のアスファルトが、音を立てて剥がれていくところだった。  何の現象が起きると、アスファルトは剥がれるのか、理解できなかった。  眼の前には、何もなかった。だが、そこには誰かがいるかのように、まるで波打ち際の砂に埋もれるように、剥がれていくアスファルトには二つの穴が現れた。 「え…え?な、何…?」  剥がれていくアスファルトは、足元をまるで避けるように流れていく。 「アルド」  薄闇の中で、男が口を開いた。 「そいつにはまだ余裕がある。その化けの皮を剥がしてやれ」  男がそう言った瞬間だった。   白い閃光が、突然目の前に散った。  昼間になったかのような光に、思わず目の前を手で覆っていた。何事が起こったのか、その指の間を覗き見た。

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