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1.君の秘密(6)

 誰かが、自分の前に背を向け立ち塞がっていた。  まるで、何かから自分を守るように、その男は居た。長い黒髪を一つに縛った、長身の男だった。そして眩い光は、その向こうから発せられていた。  閃光は更に増し、思わず目を瞑る。瞼を透かして、光は昏い視野を白く染めていく。  意識が混濁し、天地までもが不明瞭になる。 「…ぁっ、だ、だれ、か…」  そこで、世界は暗転した。    倒れたような音を聞いて、蓮亀は光から庇った視野の奥にその姿を探した。  アルドと対峙した男の背後で、霧島が倒れている。 「蓮亀」 「うん、彼のことは頼んだ。綺羅」  淡い水色の余韻を残して、蓮亀の背後からその姿が消える。 「これは目眩ましのつもりですか」  鋭い閃光が消えていくのを確認して、蓮亀は町谷の姿を探した。  対峙した二人の背後で、綺羅が少年を抱き起こすのが見えた。その他に、町谷らしい人影は消えていた。 「ここだぜ、坊や」  背後で、低い男の声が響いた。 「!」 「チェックメイト、か?」  町谷の指が、蓮亀の首を掴んだ。同時に、蓮亀が身動く前に、蓮亀の足元に円陣が浮かび上がる。両腕を伸ばした程の距離まで広がった円陣は光を放ち闇を斬り払った。 「おおっと!」  町谷の指先が、蓮亀を突き放す。闇を切り裂いた光は微かな音を立てて町谷の頬を小さく裂いた。 「…てて、危ねえな!」 「お互い様ですよ」  蓮亀は乱された詰め襟を正すと、頬を拭った町谷に向き直る。改めて胸ポケットから取り出した革表紙の本を、ぱらりと捲る。 「その革表紙、必要ないんじゃないか。聞いてねえぞ、こんな力」 「…いつも出来るとは限りません。僕も、咄嗟のことだったので」  町谷は光の奔った形跡を眺めているようだった。蓮亀から放たれた光は路地を形成するビルの壁を灼いたように鋭い線を残していた。 「もうちょっと加減できると嬉しいんですが」 「…なんだ、電池切れか?」 「そんなところです」 「ハッ、そいつはいい。…おい、アルド!」  一息に笑って、町谷は蓮亀の背後を見た。蓮亀も、振り返る。こちらを見た綺羅が、少年を抱き上げたまま再び姿を消していく。 「逃がすなよ?」  町谷の言葉が先か、アルドの姿が瞬時に消える。何かに気付いた綺羅が少年を素早く地面に下ろし身構えるのを蓮亀は見た。 「き…」  綺羅、と呼ぶ前に、僅かな光の軌跡を残し、綺羅の姿が消失する。派手な音を立てて、僅かに離れたビルの壁が陥没した。

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