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1.君の秘密(8)
手を伸ばしたその指先を、黒い影が滲み、飲み込んでいく。
「!くそが…っ、アルド!」
町谷が叫ぶと同時に、銀の輝きが影を薙ぎ払う。現れたアルドに対峙したその影は、少年を庇っていた男だった。
男の白い肌と対比するように、黒い影が燃え上がる。
男は、黒い炎を纏っていた。
「玄族…!」
炎に捲かれた腕を庇い、町谷は口にした。
「面倒な奴が…!」
舌打つ町谷を背後に隠し、アルドは静かに男に対峙した。
「あなたが挑発したんですよ」
蓮亀は言いながら背を向けると、昏倒したままの少年へと近づく。
見れば、陥没したビルの壁には綺羅の姿は無い。
「綺羅、出てこれる?」
大丈夫。ここにいるよ。
囁くような声が響き、淡い水色の光が蓮亀の眼前に現れる。蓮亀はそっと引き寄せると、唇を寄せた。
光が強くなり、綺羅の形を象る。
透けてはいるものの、明瞭になった綺羅は微笑を浮かべ頷く蓮亀にそっと唇を寄せる。
優しくキスを交わすと、綺羅の瞳に戦意が戻る。
「蓮亀、彼は…」
「玄族だ。それも、相当に上級の」
「…うん。彼の主人は…」
「俺ならここにいる」
薄闇から、声が響いた。
「!」
見れば、昏倒した少年と同じ顔の少年がもうひとり、路地に立っていた。
蓮亀と同じ詰め襟の制服を着た少年は、静かに昏倒した少年に近づき、抱き起こす。
「弟が世話になった。…真言、すまない、遅くなって」
同じ顔をした少年を真言、と呼び、その頬に触れる。
「霧島くん、君って双子だったのか」
「そう、術士は俺。こいつは、何も知らない…」
僅かに呻いた少年を軽々と抱えて、霧島と呼ばれた少年はアルドに向き合う男をちらりと見る。
「俺は先に行く。…イスナ、やれ」
イスナと呼ばれた男が静かに頷く。ピクリと反応したアルドが、地面を殴りつけた。
激しい裂音が響き、避けたアスファルトから黒い炎が吹き上がった。
「チィ…ッ!」
引き攣った表情の町谷の周囲を白い光が舞う。光を放つアルドの姿が崩れ、町谷を包んだ。
「面倒だ。アルド、退くぞ」
その一声を残して、強烈な白の閃光が路地に広がる。
光が薄らいだ時には、町谷の姿は消えていた。
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