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第16話

そこに仁王立ちして立っていたのは、いつもの端正でクールな顔を真っ赤にして怒りの表情をしていた蓮の兄の豪だった。   いつも豪の後ろに影のように付き従っている豪専属の執事である尋美は直人を押さえつけている。 突然の豪の出現に壁に身体を打ち付けた痛みも忘れて、床に倒れたまま呆けている俺の髪を手を伸ばして掴み、引き上げる。 パシッ!! 無理矢理、立たされた俺の左頬を問答無用で叩く。 パシッ!! 今度は右頬。 何度も何度も叩く。 さっきまで勇士に抱かれていたせいで足、腰に力が入らない。 俺が今、立っていられるのも豪が俺の髪の毛を力一杯掴んでいるからだ。 そうでなければすぐに倒れていた。 俺が豪に殴られる度に、掴まれている髪の毛がブチブチ切れる。 俺の中に放たれた勇士の白濁がコポコポと零れ落ちていく。 そんな事には構わず、豪は俺を叩き続ける。 「蓮に!!」 パシッ!! 「拾われた!!」 パシッ!! 「恩も忘れて!!」 パシッ!! 「お前のせいで蓮が………っ!!」 パシン!! 最後に叩かれ、突き放された。 「蓮に何かあったら……許さない!!」 「………待って!!」 俺は慌ててその場から立ち去ろうとしている豪の右足に抱き付いた。 「…待って……待って下さい……っ!!」 「放せ!!」 「…蓮に……っ!!…蓮様に何かあったんですか!?」 ガッ!! 「…ああ……………っ!!」 豪に蹴られて俺は後ろにひっくり返った。 「…蓮は……車に跳ねられて……今、病院だ………っ!!」 (……跳ねられた………っ!?) 豪は俺を蔑むように見下ろすと、呆然とした様子で床に座り込んでいる勇士を指差し叫ぶ。 「……お前は…蓮を守らず、こんなヤツとここで何をしていた!!」 「…………………………っ!!」 ………豪に責められて、俺は言葉もない。 「……二度とその顔、見せるな」 豪が踵を返し、部屋を出て行く。 豪が去って行く。 「………待って!!」 考えるより先に身体が動いていた。 豪の足に飛びつき、しがみつく。 「…お願いします…私も病院に……っ!!」 「触るな!!」 蹴飛ばされても、しがみついた足を放さない。 何度、蹴られても何度もしがみつく。 ここでこの足を放したら、もう二度と蓮には会えなくなる。 そう思い、絶対、放すものかとしがみついて放さなかった。

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