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第6話
――そう。あの薄闇の中、堕ちていく自分を呼びかけた声の主人は、まさしくキュロス・アスグローデ。両親を屠り、自国バスティーザを奪った憎い相手。
それなのに――自分は彼の声に誘われ、未だこの世界にこだわっている。
『引力』
たとえ彼が両親の命を奪ったとしても――。
たとえ彼が自国バスティーザ国を滅ぼしたとしても――。
どう足掻いても、フィーユは彼に心を奪われているのだ。それが憎いと思うほど狂おしい感情の裏側だった。
「…………」
しかし自分を看病する意図が判らない。
果たして彼、キュロス・アスグローデは、敵国だった王子に死なれると困る理由があるのだろうか。
もしかすると、近々、バスティーザの民が報復の狼煙を上げる知らせでも入ったのだろうか。だから王子である自分を閉じ込め、捕虜として囲う必要があるのか。バスティーザの民に服従を誓わせるために――。
だったら全ては納得がいく。
(だけど……)
だったら何故、彼は今、こうして眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情を見せる必要がある?
薄闇に堕ちていくフィーユに悲しみと苦痛を伴った声で呼んだのだろうか?
(貴方は何を考えているの?)
そっと手を伸ばす。彼の眉間に刻まれた皺に触れようとした――その時だ。大股で歩く乱暴な足音がこちらへ向かって来るかと思いきや、部屋のドアが勢いよく開いた。
「キュロス! 貴様これはどういうことだ!? 王族もろとも皆滅ぼしたと言ったのはお前であろう。噂を聞いて駆けつけてみればこれはどういうことぞ!」
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