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第9話

 楔を咥えることにすっかり慣れた後孔はグレファ王の指を易々と飲み込んでいく。 「……ああ、緩いな……慣らす必要はないのか。キュロスに抱かれたか……お前に儂をうんと覚えさせてやろうのう。他の誰も咥えられないよう、うんと――な」  グレファ王は後孔から指を引き抜く。フィーユの華奢な腰を持ち上げた。  この慈悲もない王に抱かれる。 「っひ……うう……」  絶望に打ちひしがれ、このおぞましい結末にフィーユは項垂れる。すべてを諦めた時だった。 「っひぃっ!!」  自分ではない悲鳴を聞いたフィーユは、顔を上げた。 (な……に?)  フィーユは驚きを隠せなかった。だって、絶対的な服従を見せていたあのキュロスが鞘から剣を抜き、切っ先を王の喉元に当てているのだから――。 「残念ながら、貴方はこの国を治めるべき大器ではありませんグレファ王」  フィーユは目の前で何が起きているのかさえも判らないまま、放心状態で二人の動向を眺める。 「謀反を起こすというのか! 我はお前の君主だぞ? 生かすも殺すもこの俺次第だと知っているのか?」 「たしかに貴方は我が国の主。しかし残念ながら、民も兵も誰も貴方に心許してはいない。無論、この私も――」  手を上げ、合図すれば、そこにはフィーユが知っている兵たちが王を囲んでいた。  銀の鎧の胸には赤い竜の刺繍。  それは紛れもなく、バスティーザの紋章。

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