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第10話
「お前達! なぜバスティーザの者たちがここへ!」
「私がここへ皆を集めました。――いえ、ここだけではなく、貴方の身の周りすべてバスティーザ国と私の意思を共にした兵たちです」
果たして目の前では何が起ころうとしているのだろう。
フィーユは訳も判らないまま寝具の上で呆然と過ごしてしまう。それがいけなかったのだ。グレファ王は懐から短刀を取り出すと、フィーユの首筋に切っ先を突きつけた。
「貴様! キュロス!! どけ! さもなくばこの者の命はないぞ」
「っあっ!」
グレファ王の切っ先がフィーユの喉元に触れる。一筋の赤い鮮血が一筋、生まれた傷口から溢れ、流れ出る。
「貴様! グレファ!!」
キュロスの怒号が周囲を覆う。
(ああ、やっぱり俺は、この恋に間違いはなかった……)
自分は殺される。そう思うのに何故だろう。少しも恐ろしくはなかった。それどころか、フィーユは彼が怒りをあらわにしてくれていることに幸福を覚えていた。
もうこれだけで十分だ。自分が愛した人は大きな器の人物だった。
グレファ王の人質となった自分はいったいどうなってしまうのだろう。フィーユは目を閉ざす。
キュロスたち一同は人質にしたフィーユを連れたグレファ王に途を開ける。もはや彼らには固唾を見守ることしかできない。
グレファ王はフィーユを引き摺り拘束したまま、上階へと駆け上がる。
彼は恐らく、上空から飛竜を呼び、フィーユを連れて逃げるつもりだろう。
バスティーザの兵士たちに囲まれながら、それでもなんとか最上階に辿りついたグレファ王は、角笛を吹き、飛竜を呼ぶ。
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