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第3話
「俺の名前は、芹沢 政宗 」
「政宗って伊達政宗の?」
「末裔とかじゃないからな。よく言われるけど赤の他人だ」
「そりゃそうだろ、苗字じゃないんだし。それに歴史上の人物相手に赤の他人て……面白いな、芹沢さん」
「政宗でいいよ。で、お前の名前は?」
「俺は、羽矢世 亜季 」
「亜季……」
女みたいな名前だろ?と、酒でほんのり赤い顔が揺れて気まずそうにしているのを見て、初めてこいつの顔をしっかり見た。
思いのほか明るめな栗色の髪。
それが目にかかるくらいの長さで、その奥に揺れる瞳はくっきりとした二重。
その目はとても綺麗で、どこかあどけなさが残る雰囲気とは対照的に大人びて見えた。
……可愛いって言ったら変なのかもしれないけど、その一瞬の仕草が俺の中の何かに触れた。
今思えばあれは一目惚れだったのだろう。
初めて会った時から我儘で強引でマイペース、だけど結局はこいつをどういうわけかほっとけなかったのは、多分何か運命的なものを無意識に感じていたのかもしれない。
年も同じくらいで三十ちょっとだと知り、お互いに親近感を覚えたのか、それからはあっという間で、店以外でも会うようになった俺たちは……客から友達、そしてそれ以上を意識するようになるのには、そう時間はかからなかった。
俺は元々、同性しか好きになれない……所謂ゲイだけど、亜季は違ったのかもしれない。
けど、俺からの告白にもキスも当たり前のように受け入れてくれた。
だから余計に安心していたのかもしれない。
亜季はずっと俺のことを好きでいてくれると……
「政宗だから好きになったし、政宗だから受け入れた」
そうベッドの中で火照った身体を俺に預けながら囁く亜季の言葉に、居心地の良さを感じていた。
そして恋人として付き合いだして半年が過ぎた頃、俺たちは自然な流れで同棲を始めた。
「お帰り……」
「ただいま。寝てたのに起こし悪いな……」
「別に気にするなよ……って、ちょっと……ッ……重い」
「いいじゃん……お帰りのちゅーはしてくれないの?」
「……しょうがないな……ッ……おかえ……んんッ」
「……ッ……ただいま、亜季」
「お帰り」
「お前の匂い……安心するな」
「え?」
「なんか、帰ってきて亜季をこうして抱きしめていると安心するし、仕事の疲れも吹っ飛ぶ」
「……俺も。政宗の仕事帰りの匂い、少しだけ香る柑橘系の甘い香りがタバコの匂いと混ざって、好き」
「柑橘系?それに俺、店ではタバコ吸わないけど」
「多分、タバコは客。柑橘系の香りはカクテルの残り香じゃない?」
「なるほどな……」
「出会った時と同じ香りがして、好きなんだよ」
「確かに、出会いは店でだったもんな」
「だからこうして抱きしめられていると、政宗の香りに包まれてるようで……なんか、色んなことがどうでもよくなる」
「そっか……」
俺が仕事を終えて帰る頃にはだいたい朝方になる。
だけど亜季は文句も言わずに、帰宅すると必ず起きて「お帰り」と出迎えてくれた。
そんな些細なことでも嬉しくて、なんだか新婚生活を味わっているような感覚に俺は一人で浮き足立っていた。
「なぁ、していい?」
「え、眠くないのかよ」
「亜季に嬉しいこと言われたら勃った」
「お前……ちょッ……んッ……待ッ……」
「待たない……ッ……いいだろ、なぁ?」
……それが大事なことを見逃しているとは気づかずに。
「政宗……ッ……気持ちッ……いい」
「ああ、俺も……ッ」
「奥がいい?それともッ……浅く擦るのがいい?」
「浅くッ……あ、んんッ……感じるとこ……が、いい……ッ」
「了解ッ……亜季が一番感じとこ突いてやるな」
「……まさ……ッ……好き……ん、ふッ」
「俺も……ッ……好きだ、愛してるッ……」
「ダメ、イッ……く……イく……ッ!!」
「一緒に、出すよ……ッ……亜季ッ」
亜季が何かを抱えていたことにも気づかずに……
いや、気づかないフリをしていたかもしれない。
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