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第4話

「俺とこれから先、ずっと一緒にいてくれるか?」 「当たり前だろ、俺はどこにも行かないし、ずっと政宗のことが好きだよ」 こうして俺たちはあっという間に将来を誓い合う程のかけがえのない存在になっていった。 そして俺は、一年前に亜季と出会ったあのBARで、出会った時と同じように誰もいない店内でプロポーズをした。 シャンパンをフルートグラスに注いで、その中に結婚指輪を落とすと、そのまま亜季の目の前に差し出す。 「これ……」 「ああ。見ての通り結婚指輪なんだけど……亜季、左手出して?」 「政宗?」 「ほら、早く」 静かに時が流れる深夜。 俺たちは、ずっと一緒にいようと未来を誓い合った。 あの時、幸せすぎて怖いと言った亜季の言葉。 時々沈んだ顔をしていたのを見て見ぬふりをしてきた俺は、あの時も同じようにその言葉を聞き流してキスで封じた。 だから、バチが当たったのかもしれない。 このまま幸せな時間が続くと思っていた俺に、神様は罰を与えたのかもしれない。 ────── ──── 「え……記憶喪失……ですか?」 「ええ。怪我はそれほど酷くありませんが、倒れた時に頭を打ったみたいでして。一時的かもしれませんが、逆に一生記憶が戻らない場合も。これには個人差があるのでなんとも……」 「そう……ですか」 「ご家族の方は……」 「家族……は、俺だけです」 未来を誓い合った矢先に、亜季の身に降りかかった不慮の事故。 そこで亜季は全ての記憶の失くしてしまった。 身元を証明できるものを持っていなかった為にスマホの履歴から俺に連絡が来て、俺がすぐに病院に駆け付けそこで俺たちの関係を話し、とりあえずは身内と言うことで病状を話してもらえたのだけど…… 「それと、ご一緒に暮らしていたら何か気づくことがあったかもしれませんが……これは精神的な面が大きいのですが、何かを忘れたいと思っていたことだけを思い出して、忘れたくないと思っていることだけを思い出せない場合もあります」 「忘れたい何か……」 「何か、心当たりでも?」 「え、いや……」 「羽矢世さんの場合はまだ経過を見ないとわかりませんが、これは心理領域が関係してくるのでまた別問題になってくるんです」 それから話された心理領域とは、三つに分かれているらしく、安全領域のコンフォートゾーン、背伸び領域のストレッチゾーン、混乱領域のパニックゾーン。 人は居心地がいいコンフォートゾーンにずっといたいと思ってしまうものらしく、それを無意識に守ろうとして反動で嫌なことは忘れようとする。 だけど、今回のように記憶喪失になってしまったことで、脳が誤作動を起こすみたいに、逆に忘れたいことを思い出して、忘れたくないことを思い出せない……そんなこともありえるのだとか。 医師は最後に、あくまで一例に過ぎませんがと言ってたけど…… ショック……というより、これは幸せ過ぎた代償なんじゃないかと思ったのは、それだけ出会いからの一年間が上手くいきすぎていたから。 さっき、医師から亜季の家族について聞かれた時に、咄嗟に自分だけが家族だと答えたけど、俺は亜季の家族のことは何も知らなかった。 それだけじゃない。亜季がどこに住んでいたとか、どこで働いていたとか知らないままで今まで一緒にいた。 亜季がいればそれでいい。 そんな自分勝手が、今こんな状況を引き起こしている気がした。 だから、コンフォートゾーンを抜け出せないでいるのはこの俺なんじゃないかって…… 自分を愛してくれている人が傍にいて、それで満足して、亜季のことについては何も聞こうともせず、居心地がいい場所だけに目を向けていた。 *

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