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第3話
【周り】の中には、勿論……夜船も、含まれていた。
『幸君が後任なら、安心だよ』
あまりにも残酷で、けれど決定的な言葉だ。
自分が生きていく上で、最も重要な存在。
そんな夜船に推薦されて、帳が会長職に立候補しないわけがなかった。
結果的に、帳は生徒会長へ就任。
ある意味で夜船の隣に立つことはできたが、それは帳の望んだ形ではなかった。
同じ役職、同じ期待が欲しかったのではない。
――帳はただ、夜船の傍にいたかっただけなのだ。
生徒会書記として一年間、夜船と関わりを持つことで育まれた想い。
その想いは役員改選後、夜船を失い三年生卒業までの残り半年という期間で帳自身にも抑えきれないほど、膨張してしまう。
想いを捨てることも隠すこともできなくなった帳は、三年生が卒業する日。
――生徒会室に夜船を呼び出し、告白した。
けれど、報われはしない。
『……ごめんね』
夜船は男同士だというのに、帳のことを軽蔑しなかった。
しっかりと受け止め、考え……夜船は、帳の想いを断ることを、選んだ。
男だからとかではなく単純に、夜船は帳をそういう目で見たことがなかった。
そして、今後もないと思ったのだ。
結ばれたいなどと、いつから考えるようになっていたのか。
自分が抱いていた夜船への気持ちは、なんだったのかすらも。
生徒会室に一人取り残された帳は、自分で自分の気持ちが分からなくなり、生活の支えを失ったことで、前後不覚に陥りかけていた。
たった四文字の言葉は、それだけ重苦しく帳にのしかかる。
――不破が現れたのは、その時だった。
『帳……? なにやってんだ、こんなとこで』
卒業式に、卒業生ではなく在校生が残っている。
……しかも、教室ではなく生徒会室に。
誰が見たって、不思議に思う光景。
その時。
『先生……誰にも言わないから、オレのこと抱いてくれませんか……』
――帳は、不破を選んだ。
帳は、胸が痛かった。
そして、なににも関心を抱いたことのない帳にとって、その痛みは初めてのもの。
だからこそ、どうしていいのか分からなかったのだ。
夜船という人生の支柱を失い、初めて感じる胸の痛みを掻き消すために。
――『別の部分を痛めつけるしかない』と、帳は考えた。
振られたことによる喪失感は、帳から冷静な判断力すらも奪い取ってしまう。
痛めつけてくれる相手。
帳が選んだのは、たまたま生徒会室を訪れた不破だ。
そして行われた初めての性交は、帳にとって最高に最悪なものとなった。
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