6 / 10

第5話

 【廊下を走る】などという……模範的な生徒が取るとは、とても思えない行動。  そうと分かっていながらも、帳は保健室に駆け込んだ。 「――帳?」  息を切らして入室してきた帳を迎えたのは、不破だった。  不破は生徒会の顧問だが、それ以前に養護教諭である。  帳は、不破が保健室に居ると分かっていたのだ。 「一時間目の授業が始まるぞ」 「分かって、ます……っ」  廊下から聞こえていた騒々しい足音で、帳が体調不良ではないと不破は気付いている。 「生徒会長がサボりか。感心しないな」 「先生……ッ」  デスクに向き直ろうと椅子を回す不破に、帳は駆け寄った。 「先生、お願いします……っ。抱いて、下さい……っ」  その言葉に、不破は動きを止める。  帳はその隙に不破の前に跪き、潤んだ瞳で不破を見上げた。 「朝から元気だな」 「先生ッ」  ――夜船のことを、考えたくない。  ――その為に、抱かれたい。  帳のことを分かっている不破は、目の前に跪いている教え子を、足を組んだまま見下ろす。 「――お前、そんなに夜船のことが好きだったのか」  突然。  触れてほしくない部分を、切り刻むように。  そんな言葉を、不破は呟いた。  帳は驚きで目を見開き、視線を不破から逸らしてしまう。 「いきなり……なに、言ってるんですか……? そんなこと――」 「俺がお前を抱いたとして……その行為に、なんの意味があるんだ」  帳は顔を上げて、不破を見る。  不破は視線を逸らすことなく、帳を見下ろしていた。  その目はやはり、冷酷なもので。  侮蔑の色を孕んでいるようにも、見える。 「何で……? 昨日は、シてくれたのに……ッ」  生徒会役員同士での、業務連絡。  それが終わり、他の役員が生徒会室から退出した後。  二人はいつも、行為に及んでいた。  生徒会室の床を帳が汚し、そんな帳のナカに不破が熱を吐き出す。  何度行ったか分からないその行為に、不破が意味を求めたのは初めてだ。  不破は爪先で、自分を見上げている帳の顎を持ち上げた。 「いつまで、逃げるんだ」  不破の靴から、帳は顎をどけようとはしない。  その時。  ホームルームの時間を知らせるチャイムが、鳴り響いた。  それでも帳は、不破から視線を逸らそうとはしない。 「逃げるって、なんですか。……オレはただ、先生とシたいだけです」 「俺が抱いたところで、お前にとって意味は無いだろ」 「意味……っ?」  そこでようやく、帳は問い掛けの真意に気付いた。

ともだちにシェアしよう!