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第6話
帳が不破に抱かれるのは、胸の痛みを誤魔化す為だ。
夜船から与えられた失恋の痛みを打ち消す為に、不破に別の部分を痛めつけてもらう。
――けれど、帳はここ最近……痛みを、感じなくなってしまった。
――不破との行為に、快楽を覚えてしまったのだ。
痛みを伴わない……つまり、夜船から与えられた痛みを打ち消すことのできない行為を繰り返して、帳になんの意味があるのか。
不破が言っているのは、そういうことだ。
「……そ、んなこと……」
「意味の無いことを続けるのに、いい加減飽きてきた」
「う……ッ!」
不破はそう言うと、靴の先で帳の喉元を蹴るように押した。
唐突な衝撃に、帳が短く呻く。
不破の言い分は、あながち間違いではない。
痛めつけてもらうという当初の目的を、今の帳では果たせないのだ。
……そんなこと、帳自身がよく分かっている。
「次は【夜船に抱かれてる】って脳内変換でもするのか」
「なにを言って……ッ!」
夜船に抱かれるなんて、想像したことすらない。
驚愕の言葉に、帳は目を見開いた。
「そういうわけでもないんだろ? なら、終いだな」
不破はそれだけ言うと、今度こそデスクに向き直る。
冷淡なその背中を、帳は忌々し気に睨み付けた。
「何でいきなり、そんな……教師みたいなこと」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
――今までは、頼めばいくらでも抱いてくれていたのに。
――何回も、ナカに出したくせに。
そんな悪態を、心の中で吐く。
跪いているのに、足元がグラグラと揺れているような感覚。
帳は耐えきれず、蹲る。
――まるで、夜船に振られたあの日のようだ。
「――好きって気持ちが、なんだったのか……もう分からないです」
膝に顔を埋めながら、帳は呟く。
それは、紛れも無い帳の本心だった。
不破はその呟きを聞いて、蹲った帳を振り返る。
「夜船会長、悲しそうな顔をしてたんです」
隣に並びたいと、思っていた。
それは勿論、恋人としてだ。
けれど、夜船のことを悲しませたかったわけじゃない。
ましてや、自分がこんなに傷つくだなんて……。
外部からの刺激を受けない日々を過ごしていた帳には、想像もつかなかった。
不破の言葉を聴き。
改めて、夜船への好意を見つめ直し。
帳の中で【なにか】が、音を立てて崩れ落ちていく。
「――こんなに痛いなら……好きなんて、知りたくなかった……っ!」
膝に、温かななにかが触れる。
それは【自分が流している涙なんだ】と、帳は気付く。
「ぅ、ひぐ……もう、イヤだ……ッ」
夜船に振られてから、三ヶ月。
帳の生活は、色を失った。
夜船への恋心を打ち砕かれたことにより、帳の日々は無色透明に戻り。
なんの為に笑って、なにを目標に勉学に励んでいるのか……。
色だけではなく、自分自身すらも……見失ってしまったのだ。
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