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第5話
「うっ」
一条は小さく呻くと、全身に怠さを覚えながらも身体を起こした。
真っ白な部屋の真っ白なベッドの上から降りると、辺りには無数のガラスケースが並べられてある。その中の殆どには青白い花が咲いていた。
「もしかして、これ、全部……」
「そう。全部、バニラ・クピディタスの花」
一条は声の聞こえた方へ振り替えると、そこには1人の男が立っていた。
真っ白な白衣に身を包み肌と髪も雪か何かを纏ったように白い。だけど、その瞳は彼が持つ全ての黒を背負ったように黒く澄んでいた。
「あ、あららぎ博士っ!!」
「うん、蘭ですけど」
「あ……」
一条は名乗るべきなのか、醜態を晒したのを詫びるべきなのか、と思い、それ以上、何も言えずにいた。
だが、いつまでもそのままという訳にはいかない。
「どうもすみませんでした!!」
一条は名乗るよりも蘭に詫びるべく頭を下げると、蘭も狼狽え出す。
「ええ、何。何!! 俺、何かしたの!? 何かしたのか!?」
蘭は頭を抱えると、白衣が皺になるのも厭わず床へ座り込んでしまった。画面の中ではクールに英語で自身の研究について語っていたイメージだったので、一条は驚いた。
ただ、本来、焦るべきである自分よりも蘭が焦っているので、不思議と一条は落ち着きを取り戻していた。
「あの、博士。どうか顔を上げてください」
「え……」
「博士は何もしていないんです。その、何かをしてしまったのは僕なんです」
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